春を迎えて

 Go!Go!ぱわふる学園(略称ぱわ学)というアイドルグループがいます。15〜18歳の5人組です。毎月インターネット放送とライブを1、2回行います。事務所がモデル事務所でして、これまではグループのキャッチフレーズとして「モデル80%アイドル20%」と唄ってきましたが、あるときから「学級崩壊アイドル」と言うようになりました。実際その名の通り学級崩壊気味です。学級崩壊していると見なされている主な要因は、物販のハチャメチャっぷりだと僕は思います。物販のスタートこそ整列してお淑やかにしていますが、いつの間にかテーブルを越えてお客側に乗り込んできて、談笑の輪が出来上がります。アイドルとお客の境界が曖昧になって、不思議な雰囲気です。ライブは、好きな気持ちを抑えて冷静に評してもすごいです。いろんな意味で。今いちばん学芸会らしさが宿っています(褒めています)。もちろん本人達は全力なのですが、その全力が全力として伝わらないところにぱわ学らしさがあるのではと思います。なんか抜けてて、アイドルとしての効率を突き詰めるのとは真逆の、ただ素人っぽさとも違う、品の良い素朴さが好きです。学級崩壊はしてますが。
 僕は2012年5月頃からぱわ学に行き始めて、これまでは地下アイドルがたくさん出演する対バンライブがメインで、東京でしか見れない謂わば東京ローカルアイドル(即ち地下アイドル)でしたが、12月に初めて地方新潟でライブをしました。東京の地下から芽が出た瞬間です。地方で行われる地下アイドル対バンライブなので、芽が出たと思ってるのは僕だけですが、とにかくうれしかったですよ。まさかぱわ学で遠征できるなんて考えていませんでしたから。ホテルを予約して、行きも帰りも新幹線で、つまり僕はもうバスに懲り懲りなわけで、アイドルは見に行くけどあくまで旅行です。だけどぱわ学のみなさんはバスだったのですね。若いなー。アイドルが長距離バス使うのは結構珍しくないそうですが、朝早く起きてバスに揺られて夜にライブするなんてがんばってますよ。ぱわ学にもそんなハングリー精神があったことに驚きです。僕なんて、トンネル抜けたら真っ白な雪景色にウォーってなって、あっという間に新潟着いてお寿司食べてました。新潟市内は雪もほとんどなく寒さもそれほど厳しくなくて、ちょっと拍子抜けでした。ジャージどころかタイツさえ穿かない女子高生を見かけて、ここは北関東より都会か、北国の女の子は強いなと感心しつつホテルにチェックイン。その後、ライブに向かいました。ライブは本当に楽しくて、今まで見てきたぱわ学のライブの楽しさを全部足し合わせて、それをまた倍にしたぐらいの楽しさで、本当に新潟まで行ってよかったなと思いました。物販も、演者全員のライブが終わった後に客席スペースを使っての物販だったので広くてのんびりした空間で、それもまたよかったです。ぱわ学の物販は、動物園の柵の中、よくウサギなどと触れ合える場所がありますよね、そんなわちゃわちゃした感じで、テーブルとか関係ない感じになってました。勝手にいろんなところで会話の輪が出来上がってるし。終いには夏目あおいさんが延々と「激闘オセロ大戦」という曲の最後の振付である大西颯季さんのキックの似てない真似をし始めて最終的に足をつっていました。その日はホテルに帰ってベッドに潜り込んでも、興奮してるせいか眠れなくて、時計を見ては目を閉じることを何度も繰り返しました。最後に時計を見たのは4時過ぎだったでしょうか。本当によいライブでした。その新潟はぱわ学3日連続ライブの2日目で、新潟の翌日も東京でライブがあり、12月はぱわ学がんばってました。僕が燃え尽きる前にぱわ学が燃え尽きるのでは、と思うほどでした。しかし、数日後のクリスマスパーティーもとても盛り上がったし、年末にかけて、ぱわ学との楽しい時間がずっと続いたのが2012年のハイライトといえます。
 後から彼女達は新潟の行きも帰りもバスだったと聞いたときは、そこまでして遠征するものなのかなと疑問には思いました。やっぱり無理はしてほしくないです。僕はぱわ学の出来る範囲でのびのびやっているところが好きなので、自らを追い込んでその反動で成長させようとする、人気を得たいアイドルがやろうとする方法に拒否反応があります。でも、大きくなろうとするにはそれが手っ取り早いんですよね。そういうグループもあっていいと思いますが、ぱわ学は違うなと僕は思っていて、そことは距離を置いてのんびりやってるところが好きな理由のひとつです。だけど、新潟の彼女達の表情を見たら、たとえバス移動でも新潟でライブできてよかったなと思えるわけです。笑顔を見せてくれれば何も問えません。そんな新潟でのライブでも思ったし、ぱわ学が素晴らしいと思う点に、ちゃんと節目のライブはいつも以上に集中して臨んでいることです。いや、どんなときも彼女達は一所懸命なんですが、ここは大事だなと思ったステージは気合いが段違いで、それが如実にオーラとして伝わってきます。非常にわかりやすい。正直者なんですよ。
 世間はアイドルブームだし、休日の道玄坂を歩けば嫌でもキャリーバッグ引いてるアイドルとすれ違うし、でも売れるのはほんの一握りなんだろうなと思いつつ、そんな状況の中、ぱわ学もいろいろがんばっています。どこに向かっているのかもわからないけれど、いつも楽しい時間を生み出して、僕を幸せにしてくれます。そんなとても大切な彼女達なので、絶対に幸せになってほしい。今は通過点。まだ通過点。だけど今も、辿り着いた先も彼女達にとって安らげる場所であってほしい。そう願っています。実際のところ、世の中にはたくさん可愛い女の子がいます。それはもう本当に。そして本当はぱわ学だけでなく、見たことのあるアイドル、会話を交わしたことのあるアイドル、だけでなく僕の知らないアイドル、どこかで誰かのためにステージに立っているアイドル、がんばっている女の子はすべからく幸せになってほしい。大袈裟すぎるけれど、今の時間を無駄だったと将来思ってほしくない。そう思います。僕には何もできないし、ただ願うだけですけど。可愛いからといってすべてを追うことも不可能です。ならばタイミングよく出会った人を精一杯見守り続けるしかないのではないか、そんなふうに考えるようになりました。その対象がぱわ学です。僕はぱわ学がよくライブするようなライブハウスに行くと、とてもやるせなくなります。将来が見えないような暗さに、彼女達はここにいるべきではないといつも思うけれど、じゃあどんな場が相応しいのかと考えると、そこには自分がいないわけで複雑です。ちょっとおこがましいですね。
 失礼を承知でこういうことを書くのは本当に迷います。万が一メンバーが読みでもしたら、小さい現場なので名前を伏せていても当然誰が書いたかわかっちゃうわけで、でもこれを読んで奮起するのもまた違うと僕は思っていて筆が鈍ります。思うのは即ち、彼女達は負けるのが多いということです。ブログやTwitterを読んでいると毎日のようにオーディションを受けています。なのに仕事はそんなに増えているわけではない(それでも3月に入ってから仕事が増えているような気がします)。ほとんど負けるためにオーディションを受けているようなものです。どんな気持ちなんでしょうか。最初から無理だなと諦めているわけでもなく、だからといって期待し過ぎたら、それはそれで落ちたときのショックが大きいし、10代の女の子がそんな挑戦と落胆の日々を送っているかと思うと、なんというか、強いなと素直に尊敬します。そんなことを考えていると、ぱわ学のときぐらいはそういう勝負の世界から離れて楽しい時間となってほしいと思っています。今のアイドルを取り巻く現状からは離れた場所で続けていってもらいたいです。難しいと思うし、それはつまり売れる可能性から遠ざかるかもしれません。でも僕は、彼女達の勝負する場所はここではないと信じているし、負けることの多い競争の中で頭一つ抜けること、自分を表現するチャンスと巡り会えることに意義があると思っています。
 まあ、あまり掴みどころのない話をしてもしょうがないので、具体的にメンバーのことを書きます。大西颯季さんはリーダーの自覚を常に忘れないで、新曲「激闘オセロ大戦」でもいちばんの見せ場を任せられています。とにかく頼りがいがあります。先日のライブでも会場全体を見渡すようにパフォーマンスしていて、その気配りに感心します。文化祭に思い入れがありすぎて、ぱわ学のイベントの衣装でも文化祭のパーカーを着る大西さん。こんなブログを読むよりも、高校卒業に寄せて書かれた大西さんのブログを読むほうが余程有意義な時間の使い方です。
http://ameblo.jp/w2w-pawafuru/entry-11484297283.html
渡辺恵伶奈さんは距離の詰め方の加速感がびっくりするほど速くて、言葉の返しの近寄りが半端ないです。なんというかびくびくしながら玄関でお邪魔しますと挨拶したらいきなり手を引っ張られて自分の部屋のクローゼットを見せてくれるような、そんな感じで、ちょっと自分が後ずさるほどです。例えがおかしくても気にしないでください。そしてお菓子作りが上手です。クリスマスとバレンタインに手作りお菓子を頂きました。見た目も可愛いし、なにより美味しい。もうパーフェクトな女子です。世間で言うところの女子力が非常に高いので、僕は渡辺さんには是非セブンティーンのモデルになってもらいたいなと思っているのですが、本人はどうなんでしょう。今ちょうどオーディション受け付けてますね。モデルといえば師井優衣さんは将来モデルになりたいと明確な意志があって、目標がしっかりしているのは素晴らしいと思います。彼女がすごいのはブログをマメに書いて、ライブの告知なども欠かさず載せて、部活を熱心にがんばってて、でも僕がいちばん好きなのは毎日学校から帰るとTwitterにただいまと書き込むことです。毎日師井さんのただいまを読むと、その何気ない日常にホッとします。だから学校がない今の時期のお昼過ぎは寂しさがうっすらと3月の日だまりに積もり、いつの間にか夕方5時のメロディーが外から流れてきて、何もないままもうすぐ日が暮れることにハッと気付くわけです。師井さんにはもう無節操にリプライしてるので、怖くて返事聞けませんよ。渡辺さん師井さんと同じく4月から高校生となる川嶋由莉さん。メンバーも口を揃えて言っていますが、川嶋さんは猫っぽいです。何やっても許されるような、妹的な存在感があります。よく考えていて、考えているときの真顔が僕は好きです。考えているんだけど、静かに落ち着いているわけでもなく、楽屋とかではうるさいそうで、その自由な性格に周りが振り回されてるのが見ていて楽しいです。日に日に大人っぽくなっていて、その美少女っぷりに磨きがかかっています。高校行ったらまた一段と素敵になる予感がします。ぱわ学は全員好きと言っていますが、見る人が見れば僕が夏目あおいさんをいちばん好きというのは隠してても明らかなようで、その夏目あおいさんですが、彼女はやはり瞬発力です。どこに飛ぶかわからないけれど、とりあえずボールがきたら打ち返す爽快さがあります。基本的に投げられたストレートを投手めがけてセンターライナーする感じで、夏の太陽を反射するプールサイドのようです。とてもカラッとして裏がないようで、あまりに裏がないようだから逆に裏があるんじゃないかと思いたくなるようなところが好きです。そんな彼女達と接していて実感するのは、当然のことだけど、中学生高校生の彼女達もしっかり自分を持っていて、流行に左右されない自分の趣味というものがあることです。それは素晴らしいことだと思います。Twitterをフォローしていると、これまで以上にそんな女子学生の日常が漏れ伝わってきて、眩しさを感じます。
 これを書いちゃおしまいなんですけど、ぱわ学には言葉では捉えきれない空気があります。本当の空気みたいに開いた指の間を通り抜けるような、並べた単語の隙間にこそ真実が存在するような、そんな捉え所のないよさがあると僕は思っています。あるときにぱわ学のことをまったく知らない人にぱわ学を説明することになって、ライブがよいのかと聞かれても歌もダンスもがんばってはいるけど抜きん出ているかといえばそうではないし、じゃあMC面白いのかと聞かれてもグダグダなときも多いし、だからといってアイドルっぽくない物販での距離の近さと答えれば、それはそれではしたないし、答えに困りました。答えらしいものを無理矢理求めるとすると、ぱわ学はアイドルであり、普通の女の子でもあり、その切り替えのテンポにフワッとする瞬間があって、その見え方の角度が変わる一瞬のきらめきが好きなのかなと思ったりもします。
 最近はライブの本数を絞ってきて、そのおかげもあるのか、それとも本当に人気が出てきたのか、1回のライブの集客数が伸びています。うれしいことです。ぱわ学の物販の混沌とした空気が好きで、それがライブに行く理由のかなりの割合を占めているのが正直なところで、お客が増えると距離が遠くなって疎外感を感じるかなと思いきや案外そうでもなかったのが驚きでした。そのときはライブですごく満足していたので気にならなかったのかもしれません。物販はライブのおまけだなと改めて思いました。
 うーん、もうね、どこそこが好きだからぱわ学追いかけてるとか、そんな感じじゃないんです。生活の一部で、僕の大切な人間関係の輪のひとつになっていて、欠くことのできない存在です。たかだか一ヶ月に一度か二度会うぐらいの繋がりですが、それでも定期的に会えてなにか交わせることに意味があり、幸せだと思っています。でも、イベントやライブに行って、メンバーからお久しぶりとか言われるとこそばゆくなるし、やっぱりファンでしかないのだなと思わされます。Twitterで結構絡んでても実際会うとお久しぶりなわけです。あー、Twitterでリプライしてると思われてないのかもしれませんね。Twitterを見てると、みんなちゃんと生きてる! って感じがすごくします。いや、アイドルだって人間だし生活してるし、とは思うのだけど、Twitterだとあちらとこちらの地平が同じになるような感覚があって、それは危うくもあります。だから、気軽すぎて相手を悩ませるようなリプライしてないかなといつも不安になります。
 ここまで長い文章書かなくても、一言好きって書けばそれで済む話なんですけどね。いろいろ書いてるけど、それは全部上っ面で、本当はここで言葉にしちゃうと失われてしまいそうな危ういひとかけらが大好きです。それは実際に触れてみないとわかりません。直に見て、話してみて、そして帰りがけふと気付くような、そんな新鮮さがあります。ライブからの帰り道はいつも自分の未熟さを痛感して、幸福と空虚がない交ぜになった心で歩いています。もっと大人にならなきゃなと凹む毎日です。
 つまり、好きです。それだけです。好きだから、自分でもどうしたらよいか距離感が狂うときがあって、いっそのこと遠ざかったほうがよいのかなと思ったりもします。ただ、ほんのちょっとしたきっかけで行かなくなることは十分あるわけで、その危うさがもうそこまで来ているような予感もします。どうなんでしょう。今は楽しいです。自分でもびっくりするほど楽しい時間が長く続いています。新しい知り合いもたくさん増えました。ずっと楽しいまま続けばいいなと思っています。でもそれが難しいことは過去の経験からある程度わかるし、あまり先のことは考えないようにしたいです。今は素晴らしい時間の只中にいることに浸るだけです。
 4月になって新しい生活が始まります。みんな変わるのかな。変わるんだろうな。新たな一面を、今とは違った輝きを見せてくれるのでしょう。その光があなたの行く道をまっすぐ照らしますように。



追記
 秋頃のライブの後の物販で、ちょっとふざけてきゃぴきゃぴした口調で「お仕事がんばってください!」と大西颯季さんと夏目あおいさんからエールもらったことがすごくうれしかったです。言い終わった後に2人とも爆笑してたけど、帰り道それをずっと反芻するぐらいうれしかったんですよ。その言葉だけが仕事続けてる原動力となるような、本人達は冗談のような何気ない一言でも僕にはそれだけで生きてゆけるんです。平日仕事終わりで、初めてスーツでももクロの握手会に参加したときに早見あかりさんから「お仕事お疲れ様です」と言われてなんとも安らぐ気持ちになったときのことを思い出しました。