ハコイリ♡ムスメ『ハコイリ♡ムスメの定期便3月号~君がくれた、かけがえのないもの~』@AKIBAカルチャーズ劇場(20160320)

 珠希さんありがとう!! 珠希さん最高だったよ!!


 ハコイリ♡ムスメ内山珠希卒業公演、これ以上ないほど最高の公演でした。こんなに派手にやれば珠希さんも悔いはないでしょう。最高すぎた。


 ハコイリ♡ムスメは80年代90年代のアイドルソングをカバーし、癒やしと安らぎ、そしてときめきを届ける女優志望の女の子7人からなるアイドルグループ。最近はオリジナル曲も歌うようになってきて、カバーで培ってきたハコムスの世界観が今はオリジナル曲によってさらに穏やかに広がりを見せている。そんな中でメンバー唯一明らかに異なる光を放っていたのが内山珠希さんだ。派手で明るくて、年頃の女の子が持ちがちな鬱屈とした重みをまったく感じさせない女の子。それが品行方正清純潔白なアイドルグループであるところのハコムスで活動するというのだから、それはもう最初から不思議な感じだった。


 一応珠希さんについてはハコムスに入る前から知っていて、それは芸能事務所に所属しているのに派手に遊んでいる中学生の女の子ということで自分の観測範囲に入ってきただけで、まさかその子がアイドル、それも清純派アイドルになるとは夢にも思っていなかった。そんなわけで珠希さんの奔放さはわかっていたので、最初から折り目正しい制服に心をキュッと押し込めているような窮屈感は否めなかった。


 しかし、しかし?、実際に握手会などで話してみると想像していたキャラクターよりも接しやすい雰囲気で、珠希さんとの握手会はいつも楽しかった。所謂ギャルなのに、というやつだ。気楽に話せるし、その裏表ない性格にいつも笑わされた。そして思ってたよりも純情だったのが意外だった。よく珠希さんは「次来る?」と聞いてきて、話すことがないだけなのかこちらの話がつまらないのかそれとも本当に不安なのかわからないけれど、その心配っぷりが面白かった。こいついつも来るなと最近やっと思われるようになってきたのか、そういうことも言われなくなってきたと思ったら卒業となり、本当に寂しい。


 自分にとって珠希さん好きだなと思い始めたきっかけが、2014秋の公演で『日曜はダメよ』を歌ったことだ。このときの珠希さんの可愛く歌おうという努力がすごく可愛かった。もちろん歌声もいいのだけど、それよりも可愛い曲には可愛い雰囲気で、という珠希さんの曲に対する姿勢に惚れてしまい、そこで好きに傾いたのだと思う。


 いつだってハコムスのお嬢様イメージからちょっぴり飛び出ていて、そのおかげでハコムスに画一的でない彩りを与えてくれていた珠希さんがいよいよ本気を出したのが去年の夏。珠希さん自らが言い出した自身のキャッチフレーズ「Love Peace World」は、はじめこそネタっぽかったけどいつの間にか定着していた。そのLPWをテーマに掲げ、夏のオリジナル曲『夏に急かされて』でセンターを任された珠希さんは、完全に夏を味方につけて暑い日々のステージを走り抜けた。TIFは最高の最高だったよ。スカイステージはまさしく珠希さんのためのステージで、夏の風に髪をなびかせながら堂々とセンターで歌う珠希さんがかっこよすぎて、門前亜里さんがいなくなった不安など消し飛んで、もう夏と心中したいぐらいの気分にさせられた。


 大活躍した夏から季節は変わり、秋、そして冬になり、リリイベが始まった。珠希さんはリリイベツアーも皆勤して、他のメンバーが休んだ穴をいつも埋めてくれていた。珠希さんの歌がなかったらリリイベは大変なことになっていたと思う。夏じゃない季節となっても珠希さんは頑張りを見せていて、それだから珠希さんが辞めるとは思ってなかった。本当に寝耳に水だった。最後のリリイベで珠希さんはハコムスを辞めて芸能活動事態からも退くことを発表した。そのときの珠希さんはとてもしっかりした言葉で自身の気持ちが込められていて、それは意外にもというかすうっと理解できた。


 びっくりすると同時にやっぱりかという思いもあったのは事実だ。だって自由奔放な珠希さんだもの。ハコムスは窮屈だったに違いない。


 門前亜里さんのときもそうだったが、誰であれ別れる直前というのは輝いてみえる。言葉に出来なかったもの、今まで秘かに思っていても感情の表面にまで浮かんでこなかった小さな気持ちが、あと少しで別れる寂しさも含んだ美しさを前にして、静かに浮かんでくる。珠希さんの卒業公演をソールドアウトにするためにメンバーが動画をアップしたりして、そういう感傷に拍車をかける。


 ふと立ち止まると切なくなるけれど、珠希さんが盛り上がる公演になると予告してるし、珠希さんが言うならそれは夏の太陽よりも間違いないので、当日はあまりしんみりした気分にならずに迎えた。私は180番台と、過去カルチャーズ劇場での整理番号でいちばん大きい番号。ハコムス初めてのチケット完売だそうで、珠希さんが2016年の目標としていたカルチャーズ満席を最後の最後に達成出来て本当にめでたいことだ。何故か前方柱の外側にも椅子席が作られていたので、こんな遅い番号にもかかわらず下手2列目柱外を確保。つまり、だいたいいつものポジションですよ。

  1. 微笑みと春のワンピース
  2. 約束のポニーテール
  3. baby blue
  4. 夏色キッス
  5. レモンドロップ
  6. Be My Diamond!
  7. なかよし
  8. じゃあね
  9. シャナナ(EN1)
  10. 海へ行こう 〜Love Beach Love〜(EN2)
  11. 夏に急かされて(EN3)


 2015年夏のOP映像の後に登場したのは夏の白い衣装を着たハコムス。そう、珠希さんといえば夏だし、その珠希さんの卒業公演なのだから夏衣装は必然なのだ。


 春を迎えるに相応しい『微笑みと春のワンピース』から、珠希さんの歌声が素敵な『約束のポニーテール』を最後に再び聴けたことがうれしい。珠希さんはかっこいい系の歌も好きだが、可愛くあろうとするときの女優らしさが私は大好きだ。その後の自己紹介で珠希さんは将来美容関係に進みたいと以前言っていたけれど、今は他にもいろいろなことに挑戦したくて迷っていると前言撤回みたいなことを言って笑わせてくれるし、始まりからして笑顔たくさんなのが珠希さんらしい。


 続く3曲は珠希さんセレクト。珠希さんがソロでも歌った『baby blue』は1列で歩きながら歌うシーンが大好きで、バスツアーで歌ったのが記憶に残っている。希望を感じさせる歌が珠希さんの未来を明るく照らしているようでとても良かった。『夏色キッス』と『レモンドロップ』は、もうこの時点でクライマックスになってしまったような感情の高まりに陥ってしまい、抗っても涙が込み上げてくる。珠希さんは涙脆い。よく泣く。初めて涙を見たのは新人公演千秋楽で、そのときも『レモンドロップ』を涙まじりで歌っていた。そういういろいろなことを思い出す。


 『Be My Diamond!』も珠希さんの歌が光る曲。そしてここで『なかよし』を持ってくるかという驚き。ハコムスの団結力、性格がバラバラのメンバーがひとつになって前へ進もうとするときの感動に溢れている『なかよし』をこのタイミングで歌うなんて早すぎだと思ってしまった。公演当日に『なかよし』MVが公開され、それもとても素晴らしいMVだった。今はいない門前亜里さんもたくさん写っていて、ハコムスの愛がたくさん詰まったMVは、珠希さん卒業への残り少ない時間を否が応でも高まらせてくれた。


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 最後の曲の前にメンバーからお手紙を読んだのだけど、皆泣いている以上に笑えて、小松もかさんの第一声が「こんにちは」なのが最高すぎたよ。小松さんの距離感は誰に対しても不思議なんだね。私もこの日初めて珠希さんに手紙を書いてきたのだけど、メンバーがそれぞれ気持ちを込めたお手紙を聞いていると、自分のなんかどうしようもないつまらないものだなと凹んでしまった。阿部かれんさんが手紙を読み終わって抱きついて、それがいかにもぎこちないなと思ったら、初めて珠希さんに抱きついたとのことで、やっぱりハコムスのその距離感が最高だよなとすごく笑えた。


 最後は劇団ハコムスで『じゃあね』。明るく朗らかな終わり方だ。


 ずっとクライマックスのような公演だった。どの曲も公演の最後に相応しいような曲ばかりで、歌い終わる毎にありがとうと大きな拍手で珠希さんを送り出したい気分になった。


 しかし。会場の誰もがわかっていたはず。そう、珠希さんのいちばん好きな曲が歌われていないことを。


 訪れたアンコール。波の音が聞こえてきて、出てきたのはホットパンツに"LPW"Tシャツのハコムスの皆さん。しかし珠希さんがいない。珠希さん不在のままイントロが鳴り始めて、ハコムスが出てきた側と反対側から珠希さんが歌いながら登場。白を基調に色とりどりの花をあしらったワンピース、頭には大きな花冠、極めつけは『夏に急かされて』のMVでも使われた珠希さん私物のティアドロップサングラスと、登場した瞬間に大爆笑ですよ。珠希さん浮かれすぎ最高!!!!!!!


 MINMIの『シャナナ』を歌い、もちろんタオルを振り回します。まさかお淑やかなハコムスのライブでソカが聴けるとは思わなかった。大盛り上がり。ハコムスらしさよりも珠希さんらしさが勝った大爆笑のライブ。大サビの珠希さんに至ってはメンバー全員、私ももちろんケチャしますよ。珠希さんかっこいいよー。珠希さんだけでなくみんなかっこいい。やっぱりTシャツ&ホットパンツ最高。ホットパンツから伸びる阿部かれんさんのお御足の素晴らしさよ。Tシャツの裾を縛っている小松もかさんなど踊っている最中にチラリチラリとお腹が見えて最高だし、神岡実希さんの浮かれている表情なども最高だ。


 続いての『海へ行こう』も、最初の「海へ行こう!」の掛け声から間を置かずのイントロにもう完全に涙腺が弱くなってしまった。最高ーーー。珠希さんに出会えてよかったよ。泣きそうなのにすごい楽しくて、切なさを超える速さで笑顔にしてくれるハコムスに感謝。最高すぎるから、この曲だってケチャしちゃうよね。


 珠希さんはアンコールが楽しみすぎて、本編ではあまり泣けなかったと告白していたけど、それもそうでしょう。これこそ珠希さんがやりたかったライブなのだから。アンコールが本編、前座が1時間半という定期便3月号珠希さん卒業公演でした。あまりに突き抜けすぎていて、しんみりさせにきた劇団ハコムスが蛇足に思えるほど。やっぱり珠希さんは浮かれていなきゃ。アンコールになってやっと神岡実希さんとの唐揚げ戦争が和解するなど、卒業公演にするべきことのすべてがアンコールに詰まっていた。本当に本編はなんだったんだという気持ち。ステージに出てきた大量の唐揚げを前にして、最近は唐揚げよりも焼き肉が好きとあっけらかんと言い放つ珠希さんの空気を読まない感じも珠希さんらしくて最高の最高だよ。


 最後は当然珠希さんのセンター曲『夏に急かされて』。歌うことが快感すぎてカラオケボックスにいるような感じになってる珠希さんにつられて他のメンバーもすごくよい笑顔だし、もちろん私も笑顔で、そんな笑顔に溢れた公演で最後の曲が『夏に急かされて』とくれば最高に決まってる。珠希さんのセンター、力強い歌声、すべてがかっこよかった。大サビ前の珠希さんの決め台詞である「Love Peace World」は、去年の7月に初めて聞いて、そのときは大爆笑だったけどこれが本当に最後の聞き納め。LPWを言う前に私を見たのは気のせいだったかな。かっこつけた決めポーズで「Love Peace World」と言い放ち、曲が再スタートとするかと思いきや上手に移動して「Love Peace World」、下手に移動して「Love Peace World」、客席に降りてきてカルチャーズ劇場の中心で最後の「Love Peace World」と計4回の「Love Peace World」と珠希さんLPW祭り。みんな大爆笑だよ。珠希さんやりきったね。


 最高に最高で最高な卒業公演だった。珠希さんありがとう。こんな笑顔でいっぱいの卒業はこれまで見たきたアイドルで初めてだよ。とても珠希さんに似合っていた。


 普通の女の子に戻った珠希さんがいったいどんな道に進むのかわからないけれど遠くから応援してるよ。こんな最高な時間忘れるわけがない。珠希さんハコムス卒業おめでとうございます。そしてありがとう!!!






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ハコイリ♡ムスメ 2014 Summer Reprise

 冬のある日、秋葉原の地下に夏が舞い降りた。素晴らしい公演でした。これこそエモいということでしょう。


 ハコイリ♡ムスメは癒しと安らぎ、そしてときめきを届けるアイドルグループとして2014年夏に結成され、これまで季節感を大切にたくさんのアイドルソングをカバーし、たくさんの物語を紡いできた。そのハコムスが過去の公演をリバイバルして季節を巡るのがこの冬隔週で行われているSeason in the BOXという公演。隔週火曜日の公演を重ねる毎に過去へ遡っていき、とうとうハコムス初めての季節である2014年夏を再演することになったこの日、鉄戸美桜さんがノロウィルスで欠席という突然の悲しい事態になり、自分も秋葉原に向かうモチベーションがゼロぐらいの勢いで凹んだけれど、公演が始まってみれば、確かに鉄戸さん不在の寂しさはあるものの、最高の時間を過ごせたし見たいものが見れた公演だった。久しぶりにハコムスで泣いたよ。

  1. 君の歌、僕の歌
  2. 最初のキモチ
  3. 避暑地の森の天使たち
  4. はんぶん不思議
  5. 夏色キッス
  6. シンデレラたちへの伝言
  7. 夏休みは終わらない
  8. 海へ行こう 〜Love Beach Love〜
  9. レモンドロップ


 2014年の夏を思い返す。ハコムス初めてのステージである公開ゲネプロも行ったし、新人公演もすべてとはいわないまでも2回行って千秋楽の皆の涙に私も涙した。買ってはないから実際はわからないけど薄そうな生地のTシャツを着て踊る彼女達を思い出したし、ハコムスの初めての衣装である青いストライプのワンピースが大好きで、あの衣装を撮れるんだろうなと公演を見に行ったら、自分が行った公演は2回とも撮影可能曲がTシャツで凹んだのも思い出した。千秋楽を見て、その夜に夜行列車で四国に向かったこと、夏の夜を走る列車の個室で昼に撮ったハコムスの写真、涙で瞳がきらめく門前亜里さんの写真を見返したのも思い出した。9月の反省会公演で母の花柄のワンピースを着て踊る門前さんがとても美しすぎて、その夏少女然とした姿を見てため息しか出なかったのも忘れられない。


 たくさんの記憶が甦り、それに付随するハコムスとは関係ない記憶までも芋づる式に掘り起こされてくる。そのような強い時潮に引かれつつも、圧倒的に迫ってくるのは今のハコムスだった。産まれたばかりの子鹿のようだった新人公演での彼女達とは比べ物にならないぐらいに成長した現在のハコムスがそこにいて、今の彼女達が描き出す夏はより鮮烈で、遠く淡い夏の記憶と対比をなしていた。


 何よりも『海へ行こう』だった。皆が声を合わせて「海へ行こう!」と叫ぶと間髪入れずにイントロが始まったのが最高すぎて流れた涙を隠すために今すぐ夏の海に飛び込みたくなったよ。イントロで腰を低くして海を望む小松もかさんの希望に溢れた視線が大好きで、そのわくわくしている瞳に胸が高鳴るし、「君に出会えてよかった」と歌いながら遠くを見つめる小松さんに私も胸がいっぱいになる。その視線は新人公演よりもTIFのスカイステージを思い出させた。青い空に映える白い衣装、門前さんのいなくなった喪失感を忘れさせてくれる少女達の歌、こうやって記憶が輻輳していく。


 そして『レモンドロップ』は聴く度に毎回必ず涙が込み上げてくる曲になってしまった。テンポよく刻まれるリズムに感情も少しずつ高まっていく。横一列に並び肩を組んで前に進んでくる印象的なシーン、泣き顔だらけの新人公演千秋楽を思い出して、何度でも泣いてしまう。最後のハモりも、弱々しく頼りなげだった新人公演の頃の影は消え去り、天高く伸びる手と同じような、強く真っ直ぐ届いてくる歌声となっていた。『レモンドロップ』はずるいなあと思うくらい泣かせてくるし、そうやって記憶を掘り起こしてくれるのがとても心地良い。


 鉄戸美桜さんがいなかったことは寂しいが、それでも素晴らしい公演だった。きらめきの粒子が降り積もって時の流れの重さを感じさせつつも、目の前にいるのは軽やかに今を進む少女達で、過去と現在を行き来して美しい景色を見せてくれて感謝しかない。ありがとう。




 そして話は5日後。




 鉄戸美桜さんがお休みして不完全な公演だった先日のSeason in the BOXは、それでも2014年夏公演の再演としてとても素晴らしいものだった。しかし出られなかった鉄戸さんは悔しかったに違いない。今のハコムスでステージに立てる時間はあと少しで、数日後には内山珠希さんがハコムスを卒業してしまう。その前に7人であの夏を再現したい。私もそれが見たい。その想いが通じたのか、ハコムス7人での最後の対バンは5日前のSeason in the BOXの再演、即ち2014年夏の再々演となりました。奇しくもその対バンはハコムスが初めて出た対バンと同じアイドル甲子園。その告知ツイートを読んだだけで並々ならぬ決意が伝わってきて、鉄戸さんが書いたかどうかもわからないのに、それは自身の不甲斐なさを責めているような鉄戸さんの7人のハコムスにかける強い気持ちが溢れているように感じた。対バンは行かないよとこのブログでも何度も書いているけれど、こればかりは行かないわけにはいかない。あの夏の再来はこれが最後かもしれないと思い、勇んで向かったよ。いつも通りの最前下手端で待機して、出てきたハコムスは7人。もちろん衣装は2014年新人公演と同じ細いストライプのワンピース。

  1. 君の歌、僕の歌
  2. 最初のキモチ
  3. シンデレラたちへの伝言
  4. 夏休みは終わらない
  5. 海へ行こう 〜Love Beach Love〜
  6. レモンドロップ


 再び、最高な2014夏だった。もうこのまま夏と共に死にたい。いろいろな想いが寄せては返し、時間の狭間を心がたゆたう。涙が出るよりも速くハコムスの笑顔が届き、込み上げてくるものが一瞬で焦がされる。


 今回も『海へ行こう』が素晴らしかった。5日前も素晴らしくて感動したのに。この曲は目の前にずっと阿部かれんさんがいて、驚くぐらい本当にずっと阿部ちゃんがいて、最前で見ている私の視界からはみ出るぐらいに踊る阿部ちゃんの跳ねる身体がとても眩しく、ただただ見つめることしか出来なかった。後になって思い出してみたら門前亜里さんがいたポジションに阿部ちゃんが収まっていることにやっと気付いたよ。そうか、こうやって阿部ちゃんをずっと見ていたように、私は門前さんを見ていたんだ。そう思うと不思議な感じがした。私はハコムスが歌うカバー曲がオリジナルとして歌われていた頃を知らない。この門前さんを思い出す感情は、オリジナルを知っている人がハコムスを見て湧く感情に初めて触れたような気持ちだった。懐かしくて新しい。目の前の阿部ちゃんの存在の眩さと、遠く離れて記憶の中でだけ輝く門前さんの存在が連星のように引き寄せ合い、長く見続けること、時間を積み重ねることでしか受け取ることの出来ない光を放っていた。


 ハコムスは過去のアイドルの名曲を今に甦らすアイドルグループだ。過去と現在を繋いで、時の流れで古びない歌の素晴らしさを今に伝えるグループ。結成して1年と半年ちょっと、経験を積んで彼女達は時を巡るのに手慣れてきたように思う。そんな彼女達が古き良きアイドルではなく自分達の過去を掘り起こして、今の成長を伝える。それがSeason in the BOXである。遠い時代の忘れ去られた情景を優しく掬い上げるグループとして結成されたハコムスが自分達の過去と向き合っていることに感動がある。過去が、積み重ねてきたものがあるということに時間の重みを感じずにはいられない。そうやって自らと対峙して作り上げられたステージは、十代という人生における輝かしい瞬間、大人になるとそう思わざるを得ない瞬間をステージに捧げてきたことへの尊さに溢れていて、それはもう感謝を超えた祈りみたいな気持ちになる。かけがえのない時間をハコムスとして私達と過ごしてくれて、ありがとうという気持ちしかない。


 寄せては返す波のように2度も私を眩しい夏へと呼び戻してくれたハコムス。それは素晴らしい時間だった。あの初めての夏と同じように優しく微笑んでくれた神岡実希さんの眼差しを思い出しながら、ずっと見続けてきてよかったと本当に思ったし、ハコムスがここまで続いてくれたことにとても感謝している。そんなハコムスも内山珠希さんが卒業することでひとつの物語が幕を閉じる。珠希さんの最後は夏が似合う珠希さんらしい公演に違いないし、笑顔がたくさん溢れることになると信じてる。楽しみにしてるよ。


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奥山由之写真展 BACON ICE CREAM

 強い。暴力的な強さがある。共感を得ようとか、心に寄り添うとか、生易しい空気がまったくない。残酷なまでに強く迫ってくる写真。だけど、どこがどう強いのか問われるとうまく言えない。まず撮るということがあって、その写真が見られることにあまり頓着していないふうに感じられ、それが強さのような気もする。しかし展示は考え込まれているので、見られることを意識していないわけではない。


 私も最近知ったばかりの新規も新規なので、流行を追っているだけなのかもしれないと思うときもある。でも好きになるなら今のタイミングしかないと感じていて、このタイミングで好きになれたことは良かったと思う。


 去年の年末に書店で写真集を立ち読みした。他のお客が読んでいたので、店内をぐるっと回って少し時間を潰してから写真集を手に取ってページをぱらぱらめくった。過去に何かの媒体で写真を見ることはあったかもしれないが、初めて奥山氏が撮ったということを意識して見た一連の写真は、いまひとつピンとこなかった。わかりやすいほどあっけなく、自分の眼と写真の焦点が合わなかった。嫌いじゃないけど合わなかった。なので、波長が合わないのはしょうがないと買うのを止めた。


 1月、それでも気になって個展に行った。ただ私が流行りに弱いだけかもしれないが。大小の写真で埋め尽くされた空間は、以前に写真集を立ち読みしたときとは違う強さがあった。大きくプリントされた写真に圧倒されたのかもしれない。色といい影といい、迷いの無いものがそこに写っていて、その潔さが心地良い。滝に打たれるような感覚があった。大きな写真があることで小さな写真も際立ち、すべてが同列でないことで美しさが生まれていた。


 結果的に2回見に行って写真集まで買った。写真集を買って眺めてみても、やはり展示には敵わないような気がした。写真集と個展と、どちらが本当なのだろう。残り続けるものと、一期一会の時間、どちらにも良さがあるが、写真は一瞬を永遠に切り取る手段であるから、残るものが写真という考えがある。部屋に飾るのならまだしも期間が限られている個展は、写真の存在としては特別ではないだろうか。でもその特別な空間に心揺さぶられているので、本当の意味での写真そのものを自分は好きではないような気さえしてくる。本当の意味とは。


 一連の写真に、この人はこれだという確固としたイメージが無くても奥山由之の写真だとわかる強さ。写ってるいるものの奥に同一の灯が見える。こう言われるのは本人的にはどうなのだろうと思いつつもヴォルフガング・ティルマンスに似ているように思う。ティルマンスの写真を見ると、写真はわからないなといつも思わされる。しかし見入ってしまう。そういう曖昧なイメージの積み重なりの上に成り立つ感情の変容を心地良くさせる写真との関係が、奥山由之とティルマンスの写真から感じられる。わからない。


 わからないけどすごさはわかる。掴みきれない良さは、もしかしたら流行りに踊らされていることで見せられている幻影かもしれないが、それでも奥山氏の写真はぼやけた世界の空気を射抜くようにまっすぐ胸に響く。とても強く印象に残る個展だった。