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『海街diary』@新国立劇場小ホール(20170331-20170402)

しっかり者の長女・幸(さち)と酒好きで年下の男に弱い次女・佳乃(よしの)、
いつもマイペースな三女・千佳(ちか)。

祖母の残した鎌倉の家で暮らしていた3人のもとに、父の訃報が届く。
そして、幼いころに別れたきりだった父が残した“異母妹”を迎えることになり……。
十五年前、家族を捨てた父。再婚して家を出ていった母。
四姉妹の共同生活は、それぞれに少しずつ変化をもたらし、4人は本当の家族になっていく。

海の見える町に暮らす姉妹たちが織りなす、切なくも優しい家族の絆の物語――

STAGE|STRAYDOG ストレイドッグ


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 素晴らしかったー。大大大好きな『海街diary』がそこにありました。四姉妹とその周囲を巡る大勢の人達の心模様が、鎌倉の四季を横糸として、機を織るように美しく描かれていました。とにかく四姉妹の関係性が良かった。原作漫画同様に、ときには喧嘩しながら、ときには助け合いながら、女4人で強く生きていく様は、最近の自分が好きな傾向であるところの淡々とした生活の中で生まれる美しさが滲み出ていました。


 四姉妹それぞれにそれぞれの事件はあるものの特に大きな事件はなく、ただただ巡りゆく季節と人の交わりが描かれているのですが、一応メインのテーマといってもいいのは親と子、家族の切りようにも切れない絆だと私は思っています。家を出ていった母に反発しながら、どうしても見捨てることの出来ない関係に様々な出来事を通して折り合いをつけていく長女の幸。終盤はほぼ幸の物語として進んでいきます。めくるめく場面転換で幸はあらゆる人と言葉を重ね、整理の付かない気持ちをなんとか宥める。その一連の流れがとても自然で、ページをめくるようにスムーズだったので、観ていて集中がまったく切れませんでした。そのクライマックスが父の一周忌での幸の言葉で、あまりに完璧な終幕っぷりを感じたので私はこの場面で舞台が終わると思ってしまいました(終わらなかったけど)。自分も親との接し方でどういう距離感がいいのか歳を取る毎にわからなくなってきていて、しかも私も長男なので幸にはなんとなく共感を覚えてしまいます。カーテンコールではふにゃふにゃしていて、隣の柳ゆり菜さんに頼って笑いを取っていた山崎真実さんでしたが、演じているときは長女として堂々としていて、なんというか自分もしっかりした大人にならないとなと身につまされる思いです…。


 次女よっちゃん役の柳ゆり菜さんはグラビアアイドルという情報しか最初は持ち合わせいなかったのですが、演技めっちゃ良かった…。そして歌めっちゃ上手かった…。失恋のシーンからのソロが素晴らしくて、なんて歌上手いんだとびっくりしてしまいました。私は映画版も好きなので、どうしても映画版よっちゃんの長澤まさみさんに寄せてきているのではと思えてしまって、つまり仕草がエロいんですが、しかしそれにしても柳さんのよっちゃんがよっちゃんすぎて良かった。あと、最前でよっちゃんのチアガールを目の前にしたときはちょっと現実感のないフォトジェニックさがあって拝みたくなるぐらい最高だった…。


 そして三女のチカちゃんは門前亜里さん。チカちゃんといえばもちろんアフロ。映画版で唯一不満だったチカちゃんがアフロではないという点を、この舞台では門前さんが見事アフロで原作通りのチカちゃんを演じてくれました。たまごボーロのようなまんまるのお顔にさらに大きい円を描くようにのっけられたアフロヘアーが最高で、門前アフロさん超可愛かった。ここだけは盲目にならざるを得ない。くしゃっとした笑顔も最高で、よっちゃんとチカちゃんのやりとりは観ていて本当の姉妹のようでした。四姉妹の中で彼女だけ主役となる話がなかったのが残念だけど、その分いろんな場面でストーリーを支えて盛り上げて、物語に彩りを加えていました。


 チカちゃんはもともと三女の末っ子なのに異母妹のすずちゃんが来ると、一気にお姉さんになるのがチカちゃんの気遣いの良さを表していて、それは門前さんの優しさにも通じているようで、観ていてホッとします。他の登場人物と同様にチカちゃんもチカちゃんなのに、チカちゃんは門前さんでもあり、それは門前さんのことを少し知っているからではあるけれど、チカちゃんはまさに適役で、門前さんがこういう役に巡り会えたことは幸せだなと思うのです。周囲のちょっとした心の機微を感じ取れるチカちゃんを見ていると、ハコムスにいた頃もこうやって周りに気を配っていたなと思い出したりして、門前さんだからこそのチカちゃんの良さが十二分にありました。特によっちゃんとの関係性がとても素晴らしく、他人の心のふとした隙間に入り込んで温かくしてくれる門前さんがチカちゃんを演じることでよっちゃんとの関係に親密さが増して、この2人のやり取りが本当に愛おしかった。


 チカちゃんのいちばん好きなシーンは梅を収穫し終えた場面で、縁側でぐたーっとしているチカちゃんを観ているだけで、あの家の雰囲気が伝わってきて最高です。自分の家でもあんな感じで門前さんはソファーでぐでっているのだろうか。超可愛い。


 門前亜里さん好きなので長文になってしまった…。ストレイドッグの新年会にも行かなかったので去年の12月ぶりの門前さん。久しぶりだったけど可愛かった…。


 最後に四女のすずちゃんだけど、木下愛華さんの寡黙だけど雄弁な瞳が美しかった。千秋楽の涙で光る大きな瞳が印象的でした。役作りなのか本人の癖なのか、涙を拭く手の仕草に年相応の幼さがあって可愛かったし、私は最初のシーンでのぎこちない表情が大好きです。上の3人との暮らしを女子寮の下っ端みたいと言ったすずちゃんに、原作ではやはりどう頑張っても姉妹ではないんだと気付かされるわけだけど、舞台ではそこは上手い例えと笑って流されていて、それはどうなんだろうと未だに悶々とします。思い出してみると、すずちゃんはとにかく走ってたなあという記憶があって、実際そんなに走るシーンが多いわけでもないはずで、しかしすずちゃんの駆ける姿はこちらの胸に訴えかける強さがありました。時間が止まった世界ですずちゃんだけが動くシーンがあって、そのときのすずちゃんの表情がめっちゃ良かったわ…。


 全体の感想としては想像以上に原作に忠実でした。ロナウジーニョ!! 前日に原作を読んでから初日を迎えたら、読んだものがそのまま台詞として発せられていたのでびっくりしたのと同時に、これは読み返さなくて新鮮な気持ちで観たほうがよかったかもなと思ったりもしました。私は原作を読んであらすじはわかっていたから戸惑うこともなかったのですが、たくさんの話が絡み合いながら場面も頻繁に切り替わって進むので、『海街diary』に初めて触れた人には話がわかったのだろうかちょっと不安にはなります。にしてはすごい上手く話をまとめているとは思うんですけどね。結構話を端折っても2時間を超える作品なんですが、間というものがなくテンポよく話が進んでいくので飽きずにあっという間の時間でした。ただ、これを言ったら元も子もないんですが、『海街diary』のような大きな事件もなく核となるストーリーもない作品は舞台に向いていないのではないかとちょっとだけ思ったりもしました。今回の終わらせ方も最後無理矢理クライマックスにしている感があったことは否めない。どうなんだろう。他の劇団でやったらどうなるのか気になります。ミュージカルっぽく歌を交えてきたのはこの劇団らしくて良かったなと思います。柳ゆり菜さんの歌は素晴らしかったし、私は四姉妹がスタンドマイクで歌った曲が好きです。四姉妹に関してはどう配役したって批判は出ます。だけれどもこの舞台の四姉妹は本当に四姉妹でした。最高の美人四姉妹。マジで。上手く表現できないのだけど、話の本筋とは関係ないちょっとしたコミュニケーションが四姉妹を四姉妹足らしめていたのではないかと思っています。映画版の四姉妹も好きですが、この舞台の四姉妹も観劇を重ねる度に好きが増していって、最終的にご近所付き合いしたいぐらいの気持ちです…。


 『海街diary』は舞台となる鎌倉という土地柄、紫陽花が重要なモチーフとなるのですが、まあ紫陽花出てきません…。最後の歌のシーンで紫陽花を持った演者が出てくるぐらいです。だけど物語の始まり、最初に4人が揃って高台に登って、父の住んでいた温泉町を見下ろしたときに鎌倉っぽく紫陽花の色で照らされて、それが本当に綺麗でした。という感じで目で見て季節感がわかるというのは少ない舞台でした。舞台はステージがひとつなので季節の変化を表現するのが難しかったと思います。映画で印象的だった桜も無かった。と書くと季節感は皆無かというとそんなことはなく、その難しい季節の表現を、この舞台では音で丁寧に描いていました。耳を澄ますと季節の音が聞こえてきて、風景が見えるようでした。(と書いたはいいけど夏の音しか覚えてないな…)


 個人的には紫陽花は門前亜里さんと関連付けての思い入れがとても強く、何故なら門前さんがハコムスを卒業する直前の5〜7月は触れるものすべてが濃厚に感じられて、あの頃の空気や匂いが門前さんとの記憶と結び付いているからです。梅雨の湿っぽい匂いや紫陽花の色などに門前さんの影を見出してしまうわけです。『海街diary』は梅雨の時期だけの話ではないけれど、鎌倉というと紫陽花なので、門前さんがこの舞台に出演すると知ったときはこのような思い入れのために誰にも共有できそうにない期待を抱いていました。そして観劇しながらもやはり過去を思い出してしまうのです。こじつけに近いですが、『海街diary』の四季を巡っていく物語は季節感を大切にするハコムスとも重なるような気もしてきて、そう思うと門前さんの歩んできた道はひとつに繋がっているのだなと感傷的にさえなってきます。(本筋逸れました)


 この作品でいちばん印象に残ったのは最後の四姉妹全員で言う台詞で「そしてできれば幸せでいてほしい」です(だったかなうろ覚え)。この「できれば」という確信ではなく可能性にかけているところ、そこが今の自分にとって響くものがありました。アイドルが好きでアイドルを追いかけていると「夢は絶対叶う」みたいに言い切ることで強さかっこよさを打ち出していく場面によく出くわすけれど(「世界には愛しかない」もそのひとつ)、そういうのを好む一方で、最近はちょっと不安定な希望に生き方を委ねているような言葉遣いに惹かれることが多いです。現実はやはり厳しくだからこそ現実なのです。また「そしてできれば幸せでいてほしい」には消えない距離感があることに私はとても共感を覚えるものがあります。たとえ深く関わりになれない人であってもそういう願いを込めた気持ちは私にも確かにあって、そのどうしようもできない距離感に悲しくはなるけれど、だからこそそれぞれがひたすら祈るだけの世界はそれはそれで悪くないのではという思いです。






 原作漫画を読んだり、映画を観たりしたときよりも、なんだか家族について考えさせられた舞台でした。生身の人間が目の前で演じていたからこそ、即ち演劇だからこそ、避けずにはいられない問題が剥き出しになって迫ってきた、そんな感じです。


 3日間という短い公演期間だったのがもったいない、素晴らしい舞台でした。四姉妹大好きです。門前さんがこの舞台に出てくれたことが本当にうれしい。素晴らしい舞台をありがとうございました。




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