劇団ハーベスト 冬の特別公演『季節はずれの収穫祭~冬だって採れるもんは採れる!Bon Appetit!』

 夏に引き続き、冬も下北沢での劇団ハーベストでした。今回の冬の特別公演はなんと劇団メンバーによる脚本演出です(作家さんの脚本もあり)。本当に手作りです。事前にわかっていたのはメンバーによる脚本演出があること、オムニバスであること、公演毎に演目が違うこと。果たして果たして、どんなものになるのか予想がつきませんでした。


 観る前は、なんだかんだ言っても結局本職の人の脚本のほうが面白いでしょと予想していましたが、観てみたら高橋紗良さんの作品がどれもめちゃくちゃ面白かったです。特に高橋さん脚本演出の『トレインマジック』が群を抜く面白さ。脚本も演出も3人の演者も、すべての歯車が噛み合って大きな笑いを届けてくれました。脱帽です。作品の内容は、英語と鉄道ネタを組み合わせて授業するエキセントリックな先生の補習のお話。英語と鉄道という組み合わせを思いついた点と、先生のキャラで既に勝負は決まっているのですが、笑いの積み重ね方がとても丁寧で素晴らしかったです。まずは会場の下北沢も通る小田急線のOと目的語のOで掴みの笑いを取って、そういうことねと観客に理解させてからトントンとテンポよく話が進み、最後になって動詞のVと対になったのが常磐線のV。え!? 頭文字じゃないの!? 笑いの切り口をクイッと変化させてきてめっちゃ笑いました。本当上手です。そして、そんな面白先生をやりきった青山美郷さんも素晴らしかったです。脚本に負けない面白さを演技で見せてくれて、さすが青山さんだなと思いました。『君を愛す』もそうですが、高橋さんのお話はどれも理詰めで、それでも笑えるというのがすごいです。不条理な笑いが無いんですよ。高橋さんは演技のほうでも『面接』での狂人一歩手前の人物、『研修旅行』での卑屈な人物など、人間の怖い面が前面に出た人物を上手く演じていました。ハーベストの公演は毎回びっくりするくらい成長するメンバーがいるのですが、今回は高橋紗良さんの成長、というか今まで見えていなかった才能が一気に開花した公演だったと思います。


 その他では、まず『連鎖電車』。電車内の人間模様を描いた作品で、こういうのが面白くないわけがありません。山本萌花さんと共にヤンキー役を演じた鈴木悠巴さんの新たな面が見れて良かったです。鈴木さんもいろんな役をやっていて、演技が幅広くなったなと思います。それを言ったら山本さんはもっと幅広くて、『ラブソング』のキュンキュンしまくりの後輩役も好きでした。


 『ヒマワリソルトアイスクリーム』もドラマリーディングというハーベストにとって新しい表現でしたが、朗読だけでもしっかりと情景を浮かび上がってきて、こういうのもいいなと思いました。『ダジャレの神』はダジャレというよりも、間で笑いを取る感じで、なのでダジャレを連発する望月瑠菜さんの相手役として絶妙な空気感を作り上げていた鈴木悠巴さんがとても良かったです。


 冬の特別公演では、いつもは受験メンバーは出演しないのですが、久保田紗友さんは既に進路が決まっているのか出演していました。今回のくぼさゆは感情表現が激しい役が多くて、それに応えてダイナミックなくぼさゆが結構観れました。『集中力』のくぼさゆも良かったし、『吐血劇場』での川畑光瑠さんとの殺陣で、ポニーテールに刀を構えたくぼさゆの横顔がとても美しかったです。


 一人芝居である『菜奈と勇人』を演じた川畑光瑠さんも成長してるなと感じました。『トレインマジック』の生徒や『研修旅行』の仲居とか、名脇役という感じです。いつもはほんわかしてるのに、自身の脚本演出の『菜奈と勇人』では川畑さんにダメ出し連発していたという弓木菜生さんには笑いました。広瀬咲楽さんの『おはよう、靴下』も広瀬さんらしい優しさがあって好きでした。今回のパンフに載ってる広瀬さんの短編もちょっと気恥ずかしくなる感じで大好きです。あと松永ミチルさんの優男は本当にズルい。松永さんと山本さんのやり取りが面白くて、『ラブソング』は観る度に好きになっていきました。


 今回の特別公演は今まで以上にメンバーの成長を感じられた公演でした。それはメンバーが制作にも深く携わっていたからかもしれません。ブログやアフタートークなどからは皆いっぱい悩んで公演に臨んだことが窺えて、だからこその劇団としての前進だと思います。考え抜いた末のステージがとても面白くて、もう1回観たかったと思う作品も多く、あっという間に公演期間が終わってしまったのが残念でした。2014年も劇団ハーベストの素敵な舞台をいくつも観ることが出来て良かったです。この冬も楽しい舞台をありがとうございました。