ままごと『わたしの星』


拝啓 わたしの星CREW


お元気ですか。新しい学期の生活には慣れましたか。
8月31日、『わたしの星』が終わってから、
心の中では蝉の鳴き声とあの時報がいつまでも響いています。
騒々しくて静かなあの空気、みんなで奏でた鼓動、こだました言葉、
もう結構昔のことのようです。
ふと立ち止まると、
皆が走り回る姿や露わになる感情、見上げる空、いろんな風景が甦ってきます。
それは夏と向き合った真摯な時間でした。
この夏はずっと心に残り続けると思います。
このブログが届くころ、貴方達はどこにいるでしょう。
たとえ、どれだけ離れても、貴方達はずっと、わたしの星。




 8月の終わり、去りゆく夏のラストスパートに合わせるように最高に夏らしい舞台を体験してきました。本当は手紙でも書こうかと思ったけど、相手はアイドルでもないし、見ず知らずのおっさんから手紙をもらうのも困るだろうしね。ここに書いて気持ちを整理します。いつものように無意味に長いです。


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 あと数十年で地球が滅び、人類のほとんどが火星に移住した世界。地球に残された高校生達は少ない人数ながらも文化祭の練習を励んでいる。そんな中、夏休みを最後に2年生のスピカが火星に旅立つ。いろいろな想いが錯綜する8月31日の物語。というお話です。詳細は以下参照(台本も公開されています)。
http://www.mamagoto.org/watashi-hoshi.html


 はい、素晴らしかったです。若さが眩しくて、意味も無く走り出したくなるような舞台でした。オーディションで選ばれた現役高校生のキャストとスタッフが約半年をかけて築き上げた舞台が8月の終わりに上演される。しかも劇中の時間と実際の時間が限りなくシンクロしています。即ち8月31日の物語が8月31日に終幕する。夏らしいというか夏そのものな舞台でした。


 この舞台については、たまたま知り合いから教えてもらって、キャストの写真良いねーと思いつつもそのときはふーんという感じでしたが、調べてみたら公演の1週間前に公開稽古があるとのこと。公開稽古なんて試行錯誤に満ちたイベントに間違いないわけで、何が起こるかわからないイベント大好き人間としてこれは行かなくてはなるまいと三鷹まで足を運びました。三鷹で知ってることはエヴァのみ。関係無いけど。初めての三鷹は遠かった。公開稽古は本番のステージを使っての実践的な稽古でした。前半はシーンを細かく刻んで、少し流しては演出指導しての繰り返し。後半はがっつり長く流した稽古で、30分ぐらいの流れをノンストップで。ストーリーわかっちゃうよ(笑)。お客を前にしての演技で緊張してると演出家は言っていましたね。そんなこんなで果たして事件つまり最大のディープインパクトはそのがっつり長い流し稽古が終わってから起きました。最後に行われる予定の質疑応答の前になんとサービスとしてライブをしてくれるとのこと。確かに舞台上には楽器がいくつもあります。キャストがおもむろに位置について披露してくれたのは自己紹介ラップ。口ロロの『COSMIC DANCE』を演奏し、1人ずつ自分達で考えた自己紹介のラップをしていきました。これがやばかった。震えた。出会いたいものがそこにあった。ちょっと外までウォーって駆け出したくなる感じ。青春というやつがどストレートでぶつかってきた。正直歌詞は聴きづらいところもあるけど、初期衝動に溢れていて、とにかくグイッと迫ってくる勢いがあってかっこよかった。これがヒップホップの初期衝動なのか。泣きそうになりました(泣かなかったけど)。あまりに感動して上の空で帰途についたことを覚えています。このラップを聴いた時点でこの舞台がすごいことになると確信しました。


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 結果として5回観ました。何度観ても感動する。毎回進化してて、これが若さなのかとびっくりしました。千秋楽ももちろん観ました。というか8月31日に観なければ夏が終わらない。常々舞台の千秋楽はいろいろな感情が入り混じって公演自体としてはどうなのかなと思うのですが、『わたしの星』は僕が観た5回の中で千秋楽がいちばん素晴らしかったです。8月31日、公演の終わりと夏の終わりが完璧に共鳴していました。


 正直なところ、ストーリーは弱いように感じました。というか、全国から集まった高校生が時間をかけて作り上げた作品を上演して、終わりと共に再び散り散りになる、それがいちばん強い物語なんですよね。舞台の外側により強い物語があるんです。そしてそういう短期間でギュッと凝縮された若いパワーが放つ輝きに僕は弱いのです。しかも夏ですよ。夏の魔法が儚さを増大させます。


 大勢で喋られると何を言っているのかわからない部分があったり、いかにも演劇っぽいシーンの苦手さは感じましたが、それすら青春らしくて全部許せます。粗いです。ベタです。でもそれを上回る勢いがありました。青春がありました。本当、高校生らしい素晴らしい舞台でした。しかも全員にドラマがありましたね。誰も脇役じゃなかった。それぞれの人生があって、夏休み最後の日があって、星は回り続けて、次の日がある。


 火星から転校してきたヒカリに見せる文化祭のパフォーマンス「わたしの星」からのスピカの独白、スピカと幼馴染みのナナホの独白への流れが素晴らしくて、静かに響くピアノと時報の音が本当に宇宙まで届くような、そんな透明感がありました。リズムに合わせながら2人が円を描きながら近づいたり遠ざかったり、あのときスピカは必ずナナホを見てて、逆にナナホはスピカを見ていたのかな。いつも後ろ向きなのでわかりませんでした。


 おそらく僕のような観劇の視点はこの舞台の本来の観られ方とは違うのだろうなとは思います。演劇評論家が考えるような難しいことはよくわかりません。僕はただ高校生達の夏休み最後の日を観に行って、結局5回も8月31日を繰り返して、本当の8月31日に夏休みは終わりました。繰り返すけど、高校生達が夏休みをずっと練習したものを8月最後の11日間で披露して同時に夏休みも終わる。僕にとっては、これが何よりも今回のいちばん強い物語となっていました。細かな話とか些細な疑問はこの際どうでもいいんですよ。とにかく勢い、これが青春。下り坂あれば自転車ノーブレーキでしょ。海が見えれば走って飛び込むでしょ。高校生が夏休みをかけて舞台を作れば、そりゃ夜空の一等星より眩しい舞台になるに決まってます。苦手な点も忘れましょう。


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 急に話変わりますが、ここでスピカに対する気持ちを書いていいですか。スピカといってもこの劇に出てくる役のスピカじゃなくて、星のスピカ。僕は9月生まれなんですね。で星座占いあるじゃないですか。小さい頃初めて星座占いを知ったときに9月生まれだから乙女座だと、なんだか男なのに乙女なんて恥ずかしいなと思ったわけです。でも後になってよくよく調べてみたら、9月のそれも後半生まれの自分は天秤座だとわかりました。え、地味すぎる。天秤て何よ、分銅載せられるだけじゃん。子供ながらに乙女でもなんでも一等星のある星座がよかった、そう思いました。なので近くで輝く乙女座の一等星スピカには憧れが今もあります。そんな屈折した気持ちのせいか、天秤座生まれの業か、世渡りの下手なパッとしない大人になってしまいましたが。


 というわけで、スピカという星には人一倍思い入れがあって、この『わたしの星』ではその星と同じ名前の少女が物語の鍵となります。スピカは小柄だけど存在感が人一倍ありました。さすが一等星。我が強そうなハスキーな声、暗いステージでの机に腰掛けながら話す言葉がとても綺麗でした。そのスピカとある時までいつも一緒だったナナホ、ナナホのスピカに対する嫉妬心と同じようなものは少なからず僕にもあります。だからどんどん感情移入していきます。観る度にナナホの存在が自分の中に大きくなっていきました。


 9月になって、スピカは旅立って、ナナホのダビングしたテープを再生してスピカの声が聞こえてきた瞬間の静寂、しんみりして、あの夏が終わった感覚。ロケットの轟音に身を任せて、自分の気持ちも消し飛ばされて、もう宇宙みたいに真っ暗になって、夏が終わる。でも見上げると小さく輝く星があって、クスクスと笑っているようで、夏が終わっても僕の心の中には時報と蝉の鳴き声と彼らの声が響いていて、ゆっくりとゆっくりと身体の一部になっていって、つまり星の一部になっていきます。


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 千秋楽では最後に自己紹介ラップを披露してくれました。僕がここまでのめり込むきっかけとなったラップを再び生で聴くことが出来て本当に最高でした。そして、公開稽古のときよりもさらにかっこよくなっていました。生きているんです、夏は終わっても私達生き続けます、みたいな躍動感が半端なかったです。


 書いてて全然まとまりが無いですね…。 最後に1人ずつ感想(こんなこと書いたの初めてだ…)

  • スピカへ

 軽快な足取りと背筋がピンと伸びるような声が大好きです。円を描きながら、近づく度にナナホを見つめる視線が本当に綺麗でした。真っ暗な中での独白、ずっと心に残っています。

  • ナナホへ

 もしかしたらいちばん好きな役かもしれません。悩みをぶちまけるときの髪がボサボサになる感じ、ちょっとした手の震え、よく通る歌声が大好きです。スピカとの掛け合いでの、好きで嫌いでつっけんどんになる口調に苦しくなります。最後のロケットを見つめる視線には毎回泣きそうになりました。

  • アカネへ

 文化祭をどうするか決めるシーンのとっても青春らしい空気が大好きです。いちばん身近で等身大っぽくて、まとめ役が似合ってました。たまに背をヒクヒクさせるのを見て自己紹介ラップを思い出しました。Twitterを読むと喉とか大変そうで心配でしたが最後まで本当にお疲れ様でした。

  • メグへ

 いっつも元気いっぱいですね。僕も実家がお米を作っていたからおいしいと言われるとすごくうれしいし、あの場面は大好きです。あとこんなに体育会系なのにピアノ担当なんて、そのギャップはずるいと思います。

  • サイトウさんへ

 難しい役だったと思うけど、メグへの対抗心とか友達のこととかしんみりしちゃいました。劇中「わたしの星」の発表のイントロでのアコギ持ち上げるサイトウさんが意表過ぎて、あの中でいちばん笑ってしまいます。

  • ヒカリへ

 登場するシーンの舞台が一気に明るくなる感じが大好きです。自己流のダンス可愛いですね。ちょっと毒があるところも可愛いですね。というか可愛いですね。

  • マナへ

 やばい感じが本物の高校生らしさのやばい感じで伝わってきてマジでやばかったです。後輩の雰囲気がよく出ていたし、僕はアイスのシーンが好きです。千秋楽の自己紹介ラップですごく楽しそうにベースを弾いていたのが印象に残っています。

  • ココへ

 何回も何回も笑わせてもらいました。ヒカリを椅子に座らせるシーンが大好きです。挙手するココさんの真っ直ぐな手が大好きです。アイスを分ける優しさが大好きです。スピカとナナホが回りながら歌っているときの2人を見つめる視線が大好きです。最後の円になって踊るときの飛び跳ねるようなダンスが大好きです。あと、写真を撮っていただいたときの変顔が最高すぎて泣きました。

  • カノンへ

 実は『わたしの星』でいちばん好きなシーンはカノンのポッ!とする表情です。可愛い役で髪飾りも可愛くて、仕草もいじらしくて、キーボードを弾く手も軽快で、本当カノンは可愛い人だなと思いました。

  • シャインへ

 びっくりする顔が最高です。以上!! うそ。男1人でがんばってた。ウォー!! って感じが最高です。

  • スタッフへ

 ポストカードの裏のThank youにほっこりさせられて全部のThank you見たい気分です。あとスタッフTかっこいいので欲しいです。稽古日誌がめちゃくちゃ細かく書かれていてもっとじっくり読んでおけばよかったなと悔やんでいます。というか本として出版してほしい…。 稽古日誌も『わたしの星』の作品の立派な一部ですね。裏方大変だったろうけどお疲れ様でした。




 本当に素晴らしい舞台でした。瑞々しくてキラキラしてて、星のように輝いてました。今はもうみんなバラバラなんて信じられない。どこかでまた出会える機会があればいいな。最高の夏をありがとうございました。


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追記
 ここ数年でこんなことは初めてというくらい喪失感が大きいです。もうこの夏は二度と無いんだよな。