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劇団ハーベスト第6回公演『裏と表とコーヒーフロート』

 『裏と表とコーヒーフロート』、もうタイトルだけで面白そうですよね。容赦無い太陽を避けるようにカランコロンと重いドアを開ければ冷房の効いた店内。午後の気怠い空気の中でコーヒーに混ざり込むアイスクリームの白い渦。まあ、穏やかなのは最初だけで、物語が転べば夏の入道雲よりも早く話は膨らんでいきます。今回は劇団ハーベストがコーヒーチームとフロートチームの2組に分かれての舞台、それぞれ3公演ずつ、計6回観ましたがどっちも良いのよね。でも、でも選ぶとしたら僕はフロートチームかな。コーヒーごめん、まだまだ甘さを求めるお年頃なの。いえ、演技の上手さなら断然コーヒーチームなんですよ。なんですけど、フロートチームのほうが好きなんです。コーヒーチームが絶対的な可愛さに振り回されるドタバタならば、フロートチームは店員2人の軽妙なやり取りで転がっていく面白さ、といったところでしょうか。フロートチームは全体として粗いんですけど気持ちを持っていくグルーヴ感があって、それが場を一つにして、もう一緒になって「夏、満喫~♪」としたくなる盛り上がりがあって、それが大好きです。
 今回の舞台を簡単にまとめると、何も世間を知らないお嬢様である伊集院さくらが兄に自立出来ることを認めさせるため、同じ大学の友人がバイトしている喫茶利豆夢で「働かせてもらうことを注文する」という1回聞いただけでは意味がわからない無茶な注文に応えるために巻き起こる騒動がストーリーとなります。
 まず、入りの店員2人(と常連客1人)がとても良い。6月の公開稽古で演劇の導入における雰囲気作りについていろいろ試行錯誤していく姿を見ることが出来ましたが、そこからさらに作り込まれたオープニングが展開されていました。有り体に言うととても自然。役が生きている。こういう喫茶店あるよあるよーという空気が見事に出来上がって、もう掴みは最高ですね。この時点でもう、店員を演じる広瀬咲楽さんが素晴らしいです。やっと自分を最大限活かすことが出来る役を掴むことができたかと。思いのほか表情豊かで、もちろん今まで目立つ役を与えられてこなかった不運もあるだろうけど、にしても今回の広瀬さんの演技は見事だったなと思います。中でもモテ自慢のときの表情とか、錦織順平常務と対したときの嫌々そうな表情とか、毎回笑ってしまいました。
 そして本公演の本当の主役は伊集院さくら役を演ずる弓木菜生さんと鈴木悠巴さんです。公演パンフレットの挨拶で青山美郷さんが今回のテーマは「原点回帰」で、途中加入の弓木さんと悠巴ちゃんに原点からスタートすることで何か気付いてほしいという願いがあると書いていて、その2人が今回は重要な役というわけです。で、まあ、なんというか、ありきたりで単純な感想で申し訳ないですが、鈴木悠巴さんが可愛いのです。とても可愛い。途中でメイド服に着替えるのですが、とんでもなく可愛い。役もお嬢様役で、本人のおっとりした雰囲気も手伝って、そのお嬢様っぷりにまあ一目惚れです。兄役である錦織純平常務でなくてもシスコンになります。たどたどしさが演技なのか素なのかわかりづらい面白さもありつつ、最終的に大人への一歩を踏み出す悠巴ちゃんの純朴な成長がまさにハーベストの成長で、一歩前へ踏み出したことで劇団ハーベストもさらに前へ進んだように感じました。弓木さんも悪くないのだけど、悠巴ちゃんの何も世間がわかってない感が圧倒的過ぎた。コーヒーフラペチーノを注文するときの「よしっ」と小さく声を出しながらのガッツポーズが可愛すぎて何も言えません。悠巴ちゃんだけちゃん付けですよ。
 今回の好きな点として、この台詞が好きだなとかは特に無いんですけど、テンポの良い会話が作り出すリズムが心地良いなと観ながら思いました。そこでやっぱり広瀬さんの良さなんですよね。しっかり者の後輩役広瀬さんとちゃらんぽらんな先輩役の久保田紗友さん、この2人の繰り出す台詞のリズムが大好きです。喫茶店の名前が利豆夢なのもこの2人の関係性を絶妙に表現していると思います。
 それから、常連客役の加藤梨里香さんは流石だなあと思いましたよ。脇役に徹し過ぎ。例えば山本萌花さんなら山本萌花さんらしさがあって、その上での演技の溌剌さみたいなのがあるわけですが、加藤さんには自分らしさというのがまったく感じられない(僕が知らないだけかもしれません…)。完全に役その人。以前加藤さんはエチュード苦手で台本が無いとダメだと演出家に言われて苦笑してましたが、心を空っぽにして役と台本を注ぎ込むようなその演劇魂が本当素晴らしいと思います。あと、ゲストの錦織純平さんはズルい。絶対笑えるからズルすぎます。
 タイトルの通り、裏と表と、一筋縄ではいかない人の生き方がドラマを作り出しています。登場人物それぞれに裏と表があって、その中でも家を出て1人暮らしの姉を持つ妹である金山風香の、真面目なんだけどそこに息苦しさを感じてしまう、お姉さん想いの性格になんだかしんみりしてしまいました。演じる青山美郷さんのちんちくりんな衣装と感情過多な表情とアイスティーの一気飲み、出番はそれほど多くないのに印象にすごく残っています。同様に、華やかだけど嫉妬心を抱える役を演じた望月瑠菜さんと川畑光瑠さんも良かった。2人の役は年の離れた妹がいる役で、川畑さんに弟がいると知ってから、そうかだからあの優しさみたいなのが感じられたのかと頷いた次第です。望月さんも抑えきれない意地悪い感じが絶妙に出ていました。望月さんコーディネートのエスニックな衣装大好きですよ。
 劇中の重要な小道具として『ポップハート』という魔法少女の漫画が出てきます。この漫画についてポップハートオタクで常連客の野々村りみは「日常の中の小さな魔法、小さな奇跡」と称していました。しかし舞台上では喫茶店だけに収まりきらないような、全然小さくない、大きな奇跡が起きていたように思います。じゃなきゃ、最後あんなに爽やかにスイカ目指して駆け出せないです。
 やっぱりグルーヴですね、演劇はグルーヴ(知った風に)。うねるように嘘に嘘を重ねて盛り上がってからの先輩後輩のエチュード、これがどちらのチームも最高で最高で、あの瞬間のくぼさゆの瞳の輝きは素晴らしかったです!!(結局そこ!!)。みんなが原点を振り返ってさらに前を見据えるような、そして弓木さんと悠巴ちゃんを打ち上げる発射台となるような、そんな舞台であったと思います。でも個人的にいちばんどっかーんと飛び出したのは広瀬さんではないでしょうか。本当、楽しい夏休みを過ごせました。ありがとうございました。観終わるとコーヒーフロート飲みたくなるのよねー。