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『常緑高校演劇部』&『熱海殺人事件』

 夏以来のエヴァーグリーンの舞台でした。今回は2幕あります。ほぼ同じキャストが2つの舞台を同時期にやるという、最初知ったときは可能なのか、2つの台本がこんがらがったりしないのかと不安になりましたが、いざ観てみたら両方の舞台の内容がリンクしていて、とても面白かったです。片方だけでもよいですが、両方観て僕の中では完結した舞台でした。僕は始めに『熱海殺人事件』を観て、その後に『常緑高校演劇部』を観ました。後から考えてそれがよかったのかなと思っています。
 ただ、他の人の感想をチェックすると、『常緑高校演劇部』『熱海殺人事件』で観てよかったと書いてる人もいて、実際千秋楽はその順番で上演されているから、そちらが正しいのかもしれません。
 僕としては先に『常緑高校演劇部』を観ても、何のことやらと自分の中で?? ばかりだったはずです。事前知識として『熱海殺人事件』を知っているならそれでも大丈夫だったと思いますが、僕は『熱海殺人事件』初見だったので。つまり『常緑高校演劇部』を観るためには『熱海殺人事件』の知識があったほうがより楽しめる内容でした。2つの舞台がリンクしているというのは、常緑高校演劇部が上演する演目が『熱海殺人事件』という体だからです。高校生が演ずるという設定なんです。だから、『熱海殺人事件』もとにかく若々しいんです。岡本夏美さんの婦警などコスプレです。始めに『熱海殺人事件』を観たときは、歳が不相応だなと思いつつ、演者が演者だからしょうがないよねと思っていましたが、その後『常緑高校演劇部』を観たら、その若々しさも考慮された舞台だとわかって、合点がいったわけです。
 『常緑高校演劇部』では『熱海殺人事件』とほぼ同じ演者が『熱海殺人事件』の衣装ではなく高校の制服で『熱海殺人事件』の稽古をします。面白いことに本番より稽古のほうがみんな活き活きしているように感じました。衣装を着て背伸びして演じているときよりも、教室で制服で演じているときの等身大な雰囲気が僕は気に入りました。
 あと観る順番が重要だなと思ったのは、この2つの舞台、本当のエンディングは『常緑高校演劇部』の最後だと僕は思うのです。『熱海殺人事件』の内容と絶妙に重ね合わされたシーンがクライマックスとなり、そこが『熱海殺人事件』を観てから『常緑高校演劇部』を観ているからこその盛り上がりを感じさせて本当に素晴らしかったです。僕は伊藤梨沙子さんの『常緑高校演劇部』しか観ていませんが、そのシーンの鈴木勝大伊藤梨沙子のやり取りが今回の感情の高まりの頂点でした。
 ところで、本物のつかこうへい脚本とどこまで違うのかわかりませんが、この舞台のために『熱海殺人事件』はアレンジされていると思われる箇所があります。特に印象に残ったのが熱海で殺される女「山口愛子」が、東京に出てきてはいいがアイドルになれず、メイドにもなれず、300円でパンツを見せる女として描かれていることです。ダブルキャスト未来穂香さんはともかく(ともかくでもないんですがとりあえずともかく)、現役でおはガールちゅ!ちゅ!ちゅ!として子供達の前に立っているアイドルの岡本夏美さんがその役を演じているのです。ふむふむのほほんと観ていたところに隕石落とされたようなガツンと衝撃ですよ。売春婦とかのほうがまだショック少なかったような気がします。300円でパンツ見せるなんて生々しすぎる。アイドルにもメイドにもなれない女を岡本夏美が演ずる、もちろんそれは狙ったことですが、その現実とのシンクロにまんまと自分はのめり込んでいき、一気に舞台への集中がそれまでより鋭くなりました。上手いですね。
 『熱海殺人事件』は未来穂香2回岡本夏美1回観て、どちらもよかったですが、ハッとさせられたという意味では岡本夏美さんの演技が印象に残っています。夏美ちゃんの訛りが本当に可愛い。あの訛りで喋られると、ストーブの前に置いたチョコレートより早くとろけそうな感じです。可愛いとしか言いようがない。可愛い。
 気になる点が無かったといえば嘘ですが、『常緑高校演劇部』の最後を観れば、それは些細なことかなと思えるほど2つが絶妙に織り合わさった舞台でした。特に伊藤梨沙子さんの表情の機微が本当に素晴らしかったと思います。窓越しに空を見つめる視線や、諦めに染まった微かに震える頬が、僕を釘付けにしました。伊藤梨沙子さんよかったなあ。劇中の蝉の鳴き声が終演した後もこだまするような、そんな舞台でした。