探しもの

 これさえあれば何も要らないというものを探しています。なかなか出会わないし、出会ったという勘違いも無いし、無論そんな何かが本当に存在するとは思いませんが。でも探してしまいます。生きていれば自分も周囲も変化していく中でそんな夢みたいなことは夢でしかないとわかっています。ただ、そんなものに出会えたらなと、そう願っているだけです。ひとつ、これが聴ければ他のすべての音楽は無くてよいのではないか、そう思える曲があります。それは早見あかりさんが歌った「あの空へ向かって」です。2年前の春、早見さんがももクロから抜けて、ももクロももいろクローバーZとなり、いろいろなことが激しく変化した直後の頃、早見さんを被写体とした新津保健秀の個展が開かれました。そこで音響作品として流されていたのが早見さんが歌う鼻歌交じりの「あの空へ向かって」です。一緒にフィールドレコーディングされた街の音に溶け込んで微かにヘッドフォンから聴こえてくる彼女の歌声が本当に大好きで、できればずっと聴いていたいな、そんな気持ちにさせる心地良い曲でした。大好きで、ことある毎にそのときの音、記憶を思い出そうとしてしまいます。いつか再び聴けたらなと願っていますが、それが難しいことも知っていますし、その曲が記憶の中で美化されているかもしれない不安もあります。最近は、その曲さえあれば他は要らないと考えるようになってきましたが、ただそれは叶わない夢で、なのでその代わりを探している日々です。そこで出会ったのが青葉市子さんの歌った「STAR FRUITS SURF RIDER」です。今年のお正月のNHK-FMでの特番で歌われたコーネリアスのカバー、小山田圭吾自身もその番組のライブに参加しています。正直青葉さんについてはほとんど存じ上げなくて、ただそのくらいの距離感のほうがいいのかなと思っています。他のアイドルの曲だと、早見さんと近過ぎる気がするので。YouTubeにその録音音源が上がっていて、ずっとそれを聴いていたのですが、先日CDとしてリリースされました。青葉さんが歌う「STAR FRUITS SURF RIDER」は静かで、湖に響く波紋のようで、綺麗に沁み込んできます。途中の口笛も湖面に映り込む星のようできらびやかです。その「STAR FRUITS SURF RIDER」が早見さんの歌った「あの空へ向かって」を聴いたときの感情を想起させます。何度も聴くうちにあの頃の記憶が甦るようになってきました。
 ある曲で、他のある曲を思い出すのは申し訳なさもあります。しょうがないです。早見さんに関してはしょうがないと思うことが結構あります。その諦念を心の底に淀ませながら思い出す「あの空へ向かって」が自分は好きなんだと思っています。そんなこんなで空を見上げているようで夜のプールを泳いでいたり、今年の夏は暑いですね。

ラヂヲ

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