劇団ハーベスト第4回公演「見切り発車シスターズ -happy go lucky-」

 青春というのが存在することを知ったときには青春から程遠い歳になっていました。昔からそうなのかわからないし、自分の観測範囲のせいもありますが、最近の女の子は青春に自覚的だなと思うときがあります。Instagramなどを見ていると僕が想像するような青春らしい写真を、その年代の女の子が上げていることがあり、それは今私達は青春を謳歌しているのだと自らわかっているようで、それは僕と彼女達が青春に対して同じ認識なのか不思議に感じます。青春って大人が懐古するものだとずっと思ってました。若いときは知らなくてよい言葉だと。そして、アイドルにしろ、少女が主役の物語にしろ、それらは大人が考える青春を押し付ける性質を孕んでいると、僕はそう思っています。でも、稀にそんな大人の思惑を飛び越えて本物の青春を見せてくれるときがあります。ほのぼの眺めていたら、大人の敷いたレールががたぴし唸り始め、レールを外れて知らない荒野を走り出す、今回の劇団ハーベスト「見切り発車シスターズ」はそんな青春が全力疾走したような舞台でした。青春と言う他ない。純度100%。大人が用意した器に、これでもかと青臭い想いをのっけて、二郎並みに観る人をうんざりさせるぐらいの青春に満ちていました。二郎はダメでも、青春ならいくらでも僕はオーケーですよ。
 北関東のイオンしかない町、一瞬映された映像では群馬県でしたね。生活も娯楽もすべてロードサイドのイオンで完結する、そんな片田舎を舞台にした青春群像劇。新しくできたスクールに気合い十分で申し込んで、速攻でスクール詐欺に遭い入学金をカモられた9人が、お金を取り戻そうとコーラスグループを結成してライブを成功させようと奮迅する。特になんの捻りもありません。あらすじだけだとありきたりなようで、だけどそれぞれの人生にとってそれは二度と無い青春で、ありきたりだけれど特別なんです。若くて熱い想いに周囲の人がどんどん引き寄せられていきます。ニコ動に自分の歌を上げる女の子。小さい頃のオーディション失敗から自ら道を閉ざした女の子。ダチとつるみながらアイスに詳しいヤンキー。夢を追い続けて生きていくことの難しさを身を以て表現する男。いろんな想いを秘めた登場人物がショーに向けて一致団結します。
 序盤のきっかけから予想できた最後のショーに向けて、物語は一直線に駆け抜けていきます。ブレーキ? そんなものは無いです。立ちはだかる障害は全部鈴木日葵が退けます。演じる山本萌花さん自身の性格が大いに役に滲み出ているような、べらんめえ口調の鈴木日葵。こんな子が近くにいたら本当に毎日が楽しいだろうなあ、そんな気にさせる女の子です。彼女に引っ張られるように周囲が明るくひとつになっていきます。たった一人の合唱部も、斜に構えていた女の子も、最後にはステージの一人となり、気持ちが爆発します。青春ですね。本人達はこれが青春だとわかっているのか、わかっていてほしくない思いも多少あります。大人になった後、時間ができたときに振り返ればいいんです。今はただ走るだけ。ショーが終わった後を一切無くして、ショーの終わりが舞台の終わりだったのが潔くて、それは夏の野球場に響く金属バットの音のように夏をギュッと凝縮していて気持ちよかったです。ショーが行われた文化祭自体は夏じゃなくて秋なんですけど、やっぱりこの物語は夏なんですよ。今は夏なんです。そう思わせるのは映像があったからだと思います。目玉焼きが作れるような暑さが伝わってくるコントラストの高い映像、すべてが夏です。観ている今の季節の空気と映像の空気がシンクロします。蝉時雨が聞こえてくるようです。舞台に映像は人それぞれだと思いますが、僕は今回の映像の取り入れ方は好きです。どこにでもありそうな一瞬を切り取って特別な一瞬に仕立て上げる、泣きたくなるような一瞬の連続で、僕は映像だけでもう一度見たいです。まあ、何度も書くように、そうはいってもこれは夏から秋にかけての物語なんですけどね。
 熱心に追いかけてるわけでもなく、劇団に新人が入っているのも途中で気付いたぐらいで、あまり偉そうなことも書けませんが、みなさんそれぞれ自分の良さが出ていたんじゃないかなと思います。各個人の素の地があって、そこに演技が加わって、合わさって劇団ハーベストらしさが出ていました。僕は初日と千秋楽を観て、千秋楽ではボケにツッコミ入れてた宮武佳央さんにびっくりしました。主役の山本萌花さんは本当に頼もしかったし、逆に加藤梨里香さんは完全に脇役に徹してましたね。千秋楽でいちばんいちばんグッときたのは山本さんと加藤さんの二人だけのシーンで、ただでさえ青春しかない舞台をさらに純化させたような対話に瞬きできませんでした。正直、全員に見せ場を作るのが難しいことはわかってます。全員が平等ではない。自分達の努力なのか、指導の賜物なのか、それでもキャラを立たせて、なんとか笑いを取ろうとしていたのがよかったです。
 劇団ハーベストは十代の女の子のみの劇団で、だから青春がテーマなのはごもっともなんですが、それにしても今回は青春が暴走し過ぎていました。それとも夏の刹那が僕を青春に対して過敏反応させてるだけでしょうか。儚いの大好きなんですよ。夏は儚いし、青春も儚いし、夏の青春の壊れやすい儚さに僕はいつもやられてしまいます。本当に夏に観てよかったなと思える舞台でした。観終わった後、最後の歌のメロディーを反芻しながら歩く帰り道は、いつもは五月蝿く感じる蝉の鳴き声さえ心地良く聞こえました。長々と書いたけど、何がいちばん良かったって、ショーのときのみんなの笑顔ね。あの笑顔が本当に最高で最高で、それがすべてです。素晴らしい舞台をありがとうございました。