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シティポップを歌うアイドルを追いかけた日記

 ただの言葉なのに、特定のコンテキストでその言葉を発せられると、それが別の意味、例えばギャグに昇華されたりする場合があります。シティポップは本来真摯にその音楽のジャンルを指す言葉のはずです。だけど、ここ最近僕の周りで聞かれるシティポップという単語にはブラックな笑い、皮肉、聞くとニヤッとしたくなる含みがあります。いい意味ばかりではない。まあそんないろんな意味もひっくるめてシティポップが好きです。僕は都会生まれでも都会育ちでも都会のジャングルを風流に生き抜いてもいませんが、おっさんになっても都会に憧れを抱いているので、シティポップに夢を求めます。そんな熱いワード、シティポップ、ぼくらのシティポップの震源地がErika.さんです。
 篠崎愛さんのおっぱい目当てで行ったら歌の上手さに引き込まれていつの間にか開墾していることで有名なAeLL.のメンバーである西恵利香さんがソロでカバーアルバムをリリースしました。西恵利香改めErika.「un Jour」という6曲入りのカバーアルバムです。その選曲が何故かシティポップ。アイドルがシティポップですよ。何故アイドルがシティポップを歌うのでしょうか。大人の洗練さはアイドルのそれとはまったくの正反対のはずです。アイドルの洗練さとは生まれ持ってのものと僕は思っていて、シティポップはそこには組み込まれないと考えていたのですが、西さんも二十代だし、大人の女性だし、シティポップも似合うと判断したのでしょう。まんま渋谷直角言うところの「カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女」ですが、それでも顔と名前がわかるアイドルが歌っているとなると途端に距離を近く感じます。AeLL.に関しては開墾の情報がたくさん入ってきますし、そんな田植えもしてるアイドルがシティポップなんだから興味湧かないわけがありません。
 ともかく、アイドルも好きだしシティポップも好きな僕はアイドルが歌うシティポップも好きです。僕はシティポップの中でも流線形「恋のサイダー」が大好きで大好きで、それをまさにErika.さんがカバーしていて、ライブで聴けるかもというただ一点のみでリリースイベントが開かれる大宮ステラタウンまで赴きました。この時期は梅雨なのに晴れたというだけで最高の気分でしたが、念願の「恋のサイダー」が歌われたので最高の最高の最高。西さんは一人で歌うからか緊張してたっぽいですが、そこはまあ置いといて「恋のサイダー」最高でした。そりゃ、弾けますよ。その日2回目のイベントでは西さんは衣装を変えてきました。エメラルドグリーンのワンピースで後ろの裾が少し長めになっていて、風が吹くとひらひらとワンピースの裾が揺れます。まさしく高原の避暑地感を具現化した感じです。そして「真夜中のドア」がかっこよかった。夜の都会を走っているふうで、西さんの歌声ととても合っていました。1回目で1枚CDを買って握手して、それで今回のCD購入は終わりかなと思ってましたが、2回目のその衣装と「真夜中のドア」が素晴らしかったので迷った末に2枚買って2ショットを撮ってしまいました。知り合いによるとAeLL.のときとは違うお淑やかな西さんを演じていたそうで、僕が握手したときも新規ファンに優しい心遣いを見せてくれて、出会ってすぐに腹パン喰らわなくてよかったと内心安心したのは内緒です。
 好きな音楽を静かにのんびりと見れるという心地良さに行くつもりがなかった翌日の大宮アルシェも行くことに。西さんの歌は野外で歌われると本当に気持ちいいです。後半3曲は夜のライブハウスで聴くのもよいかなと思いますが、やはりそれらも都会のネオンの下で聴くほうが似合うような気がします。この「un Jour」は全6曲が前半3曲と後半3曲に分かれていて、前半が昼、後半が夜、と古きレコードのA面B面スタイルとなっています。僕は夜のほうが好きです。ライブでの曲の最後のフレーズの繰り返しが大好きで、そのまま夜の闇に溶けていくようです。
 今回は本当にタイミングがよかった。平日は仕事が忙しくて、よほど大事な日でない限り、いつもは平日イベントはスルーするんですが、何故か西さんのイベント日は早く帰れることが多くて、すべては無理でしたが行けるところは全部行きました。完全に初期衝動ですが。楽しかったですよ。自己紹介してないから名前覚えられるわけでもなく、2人を繋ぐ共通のキーワードはシティポップだけで、肝心なのはライブが楽しくて、楽しいから次も行くという単純なプロセスで、だからここまで楽しくツアーを最後まで追いかけられたのだと思います。
 いちばん思い出深いのは池袋東武屋上でしょうか。梅雨の隙間に夏の女神がフライングスタートしたように晴れましたしね。都会の風に吹かれながら、空に近いステージで歌われたシティポップが最高じゃなくて何が最高なんですか。暗くなりはじめた空とそこに響く「都会」のフレーズ「その日暮らしをやめて、家へ帰ろう一緒に」が沁みます。西さんは「都会」を歌うときの都会基準にこだわりを持っていて、埼玉では歌いませんでしたし、東京でも秋葉原などの東側では歌っていません。西さんは埼玉出身だそうです。埼玉は、都会じゃないですね。でもちょっとがんばれば東京にすぐ出られます。関東なので東京と同じ情報がすぐ得られます。そんな環境で育った女性が都会への憧憬を込めてシティポップを歌います。そこに群馬出身の僕としては非常な共感を覚えるんですよ。埼玉県民には群馬なんて魔境と同じ括りにしてほしくないと思いますが一応北関東なので許してください。西さんもそんなつもりで歌っているのかといったら、それはただ僕の勝手な妄想なんですが、そう思って聴くと、あらまあ途端に深みが出てくるではありませんか。少し前に「ここは退屈迎えに来て」を読んで、そして最近は毎日「あまちゃん」を見て、都会で挫折して田舎に戻った人々の物語と向き合う機会が多く、僕の中ではそれらと西さんの歌は繋がっています。ただ、まだ西さんは都会でがんばってますよね。その物語の登場人物のように諦めていません。だから、根本的に違うのだけど、何か同じ匂いを感じてしまって、まあ失礼を承知でぶっちゃけると瀬戸際な雰囲気なんですが、むしろそこに応援したくなる感情が生まれます。完全に一方的な想いですが。そんな妄想をしながら聴く「都会」が「un Jour」の中でも特に大好きです。
 なんだかんだでシティポップツアー(勝手に命名)を通いまくって、迷いましたがここで行かないのも中途半端だなと仕事休んでツアー千秋楽の大阪にも行きました。大阪に行くことには自己満足な部分が結構ありましたが、行ってよかったと思っています。最後の大阪、これまででいちばん素晴らしかったです。おそらく素に近い西さんらしさが出てて、ライブも楽しそうにしていたのが印象的でした。最後の「都会」のフレーズは、歌われる度に色合いを変えて伝わってきて、このままずっと波のように押し寄せてくれたらなと思いました。あのフレーズが時が経った今でも頭の中に響いています。
 本当に今回のCDリリースに伴った活動だけではもったいなくて、定期的に歌ってほしいです。次のリリースもあることを期待しています。2週間、まさに駆け抜けたという感じで、楽しいシティポップツアーでした。

unJour

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