新三郷に吹いた風、1年後

 ららぽーと新三郷での最後のももいろクローバーイベントから1年が経ちました。「行くぜっ!怪盗少女」のエビ反り夏菜子に日本中が度肝抜かれたMJ放送後初のイベント。あのとき、新三郷に溢れ返るたくさんのお客さんに、ももクロちゃんもいよいよ大きく飛び立つんだと寂しくもワクワクしたのを記憶しています。実際には、あの後紆余曲折があり、本当に人気爆発したのは2011年になってからでしたが、あの新三郷に集まった大勢のお客さんには僕にそういう希望を抱かせる新しい光への熱気がありました。そしてこれまでももクロちゃんを見ていた人達はみんな、近くのももクロちゃんを見ながら、遠い彼方も同時に見つめていたように思います。新三郷では澄んで晴れやかな地平が誰にとっても見えていました。5月が終わり梅雨に入りかけのギリギリの時期を、これが私達だと言わんばかりに空を青く染め上げ、眩しそうに2階を見上げるももクロちゃん自身が眩しかったです。そして、このとき初披露されたのが「オレンジノート」でした。当時のレポを読み返すと、エバーグリーンポップと書いています。当たり障りのない感想ですが、ももクロちゃんの晴れやかな笑顔と青い空に心が満たされて、曲に込められた物語に初披露時は気付けませんでした。
 「オレンジノート」には聴く者に厳然たる溝があると思います。それは、曲からでしかそのような物語があったことを受け取れない人達と、実際にあの瞬間に立ち会ってその先に「オレンジノート」がある人達。僕は声が出なくて泣いたしおりんも見ているし、杏果ちゃんやあかりんのいないステージも見ています。体験があり曲があり、その共鳴があります。響き合いは時が経つにつれて強くなっています。その始まりが新三郷でした。今も共鳴は続いているし、それはとても大切なものです。2番の歌詞の展開が僕をあのGWに呼び戻します。これほど現場の体験と結び付いた曲はありません。共鳴は巡り巡って今の5人での「オレンジノート」に辿りつきます。そこには肝心の1人がいません。僕は5人での「オレンジノート」をまだ聴いたことはないですが、それはもう別物だという予感があります。どちらがいいというわけでもなく、ただ4月10日までは6人で歌っていたという事実があるだけです。新しい「オレンジノート」は楽しみでもあり、諦めでもあります。
 1年はあっという間でした。ここまでいろいろなことがありました。ももクロちゃんの人気が出るにつれて、それまでいわゆる大なり小なり面識のある人達の間でしか語られていなかったももクロちゃんが、まったく見も知らないたくさんの人からも語られるようになる。それらの声は新しい発見もあると共に雑音でもありました。よかった点として、それまで周囲となんとなく作り上げていた空気、僕とももクロちゃんと取り巻く現場の雰囲気、それがノイズに晒されることで先鋭化して、より1対1の関係に近付いたということです。今は何も介在しないももクロちゃんとの繋がりを感じています。それは有象無象の言葉というヤスリに削られ、それでも残った強い絆です。物語と言ってもいい。そこを強く感じれるようになったことで、以前にも増して昔の出来事や気持ちを鮮明に想起できるようになりました。今はももクロちゃんに会えなさすぎて、昔一緒に紡いだ糸を編み直しているわけですが、そうやって今までに貯め込んだ糸を見直すと当時以上にキラキラと輝いて見えます。本当にすごい週末を一緒に送ってきたのだと会えなくなって気付きました。懐古ばかりはよくないと思いつつもそれがいちばん幸せに浸れるというのがちょっと物悲しいです。今現在のももクロちゃんがどこにいるのか、僕には見つけられません。テレビでしょうか。僕は何物も通さずに自分の目だけでももクロちゃんを見たいです。