ももいろクローバー「ももいろクリスマス in 日本青年館〜脱皮:DAPPI〜」@日本青年館(20101224)

 12月24日ももいろクローバー日本青年館コンサートの日、この日は会場限定でCDが発売されるということで僕は早くから並びました。ももクロはライブでしか聴けない曲が多く、このような会場限定という形でもちゃんと曲がリリースされることがとてもうれしかったし、絶対手に入れたいと思ったので、販売の2時間ぐらい前から並びました。冬の寒空の下、ちょうど日陰のところで、たまに吹く風に凍えながら販売開始を待っていました。その待ち時間をしのぐために持っていったのが小川洋子のエッセー「妖精が舞い下りる夜」です。前日にブックオフで買いました。かじかむ手で苦労しながらページをめくり、そこに書かれていたものは想像を絶する言葉へのこだわりでした。あることを書き記すのにどの言葉を用いるか、言葉の選択に対する厳しい闘いが筆者にあることを知りました。文筆業なのだからそれは当然のことと思いつつも、言葉を信じているからこその厳しさが強烈に感じられて、衝撃を受けました。衝撃は巡り巡って自分を省みる結果となりました。ここでやっとももいろクローバーと話が繋がります。ここ最近ももクロのライブの感想を書いても、そのライブの素晴らしさをうまく書き表せていないもどかしさをずっと感じていました。ありふれた言葉による適当に見繕われた文章。ブログに早くアップするために大切なものが抜け落ちているのではないだろうか。自分で自分の文章を読み返してみてもしっくりこない違和感を感じていたところでこのエッセーを読み、自らの甘さを思い知らされました。もっと丁寧に自分が感じたことを余さず汲みとって文章にしていこうと思いました。ブログを書くためにももクロを見ているのではないとわかってはいますが、書くならとことん書きたい。そんな気持ちで感想を書いていきたいと思います。
 正直なところ、斜に構えていました。失敗したら笑ってやろうぐらいの気持ちで開演を待っていました。いろいろなライブやイベントの直前に僕が陥るような、歯がガチガチ鳴るぐらいの緊張感はありませんでした。座席が遠かったからかもしれません。過去ログを読んでもらうとわかると思いますが、「ピンキージョーンズ」のツアーを経てそのくらいの関係性になっていました。
 Overture、巨大なももクロのシルエット、走れ!、僕が何も思う暇もなくあっという間に過ぎていきました。感動とかうれしさとか、そんな名前のつく感情は置いてきぼりにしてただ見ているだけでした。あまり思い出せません。みんな泣いているようでした。なんとか我を取り戻したのは2曲目の「Believe」になってからで、ラップパートであかりんのラップとあーりんのラップが対照的なことにハッとして現実に引き戻されました。あかりんは声がうまく拾えてなくて残念だったのに対し、あーりんは気持ち込め過ぎてシャウトになっていて、あーりんの気合いが感じられる声の張りに激アガリしました。二人に限らずみんなしっかり歌ってました。コンサートタイトルの脱皮が口パクからの脱皮を意味するならば、それは僕も望んでいたことだし、素晴らしいことだと思います。
 3曲歌ってからの自己紹介で早くも泣くしおりんと泣くのを必死に我慢する夏菜子ちゃん。リーダーとみんなの妹の対照的な振る舞いを見れて、僕はこの時点でお腹いっぱいでした。泣くまいとする夏菜子ちゃんの顔を見て、本当に来てよかったと思いました。その泣かないようにがんばる夏菜子ちゃんからは、ももクロのリーダーとしてというより夏菜子ちゃん自身の信条として泣きたくないという気持ちが感じ取れて、だからこそやはりももクロのリーダーとして相応しいという、交錯した気持ちにさせられました。コロコロ変わる夏菜子ちゃんの表情は一瞬も目を離す隙を与えてくれません。涙がこぼれないように顔を少し傾け、目を大きく見開いてキリっとした顔になったときの夏菜子ちゃんはとても凛々しく、君にならついて行くと決意させる力強さと頼もしさがありました。いい顔をしながらも、すべての音に濁点を付けたような形容しがたい声をずっと発していて、そこはずっと変わらない夏菜子ちゃんでうれしかったです。自己紹介で満足してしまった僕は、この後どんなことが起こっても今日は最高のコンサートだと、もうなんの悔いもないと思いました。それほどまでに夏菜子ちゃんはいい顔をしていたし、この場に居合わせることができて本当に幸せでした。そんな心境だったので、「全力少女」の次に「ももいろパンチ」という不可解な流れでもおおらかな気持ちで見ることができました。
 残念なことにももクロが歌っているときのことをよく覚えていません。ボーッとただ見ているだけで、時折ハッとする瞬間がきて、もっとしっかり見なきゃ、今のこの時間をもっと大切にしなきゃと思うのですが、いつの間にか再び呆然としてしまう、その繰り返しだったように思います。自己紹介以降、ここがこう印象的だったとか、スッと頭に浮かんできません。ずっとボヤけた感じであっという間に過ぎていきました。あかりんとしおりんがステージからいなくなったときも、まさかソロとは思いませんでした。しかし実際はステージに1本スタンドマイクが置かれ、あかりんが1人で出てきました。戸惑いました。ここまであかりんについて、夏菜子ちゃんやしおりんやその他のメンバーほど目でしっかり追うということがありませんでした。目を向けるのを避けているのではないか、そう思うほどあかりんを見ていた記憶がありません。そのあかりんを直視できない気持ちは、このソロのあいだも続きました。ステージ上で見るべき対象はあかりん1人です。でも、見ようとしても何故かあかりんの周囲に焦点がいってしまって、あかりんが視界の中心に来ません。どうしようもないなと思いました。ここであかりんを見ないでどうするんだという思いと、微妙に視線を逸らさせる感情がせめぎあって、結局あかりんのソロもよく覚えていません。ソロのときでさえあかりんを直視できなかったのは、がんばるあかりんに対して自分の情けなさを意識してしまったからです。歌が得意でもないあかりんがソロという大役に立ち向かい、上を目指そうとする姿勢をステージ上で堂々と見せているのに対して、現状に甘んじている自分の不甲斐なさを強烈に意識してしまい、ステージ上のあかりんを真正面で受け止められませんでした。ただ、一生懸命歌っているなということは最初の第一声からはっきりわかりました。とにかく最後までやり遂げようという気持ちがグッと伝わってきました。ステージにただ一人で立つあかりんに対して、自分が恥ずかしかったです。思い出してみると、あかりんは常に成長しています。あかりんに負けないぐらい自分もがんばらなければ、そう思いました。申し訳ないことに曲自体は好きな曲調ではなかったのですが、出来ることの精一杯をやっているあかりんはかっこよかったです。
 自分への情けなさから直視できなかったあかりんソロに対して、続くしおりんのソロは最初から最後までずっとしおりんを見ていました。とても素晴らしかったです。80年代アイドルのテンプレートを忠実に守っていて、会場全体がとてもよい雰囲気となっていました。みんなの妹というキャラクターを常に演じているしおりんは、この一昔前の正統派アイドルの役もしっかり演じていました。この演じさせられてる感が出たからこそ、しおりんという人選は大成功だったと思います。しおりんだからこそのパフォーマンスに、僕はずっとしおりんを見つめていました。ぎこちない足取りで階段を一段ずつゆっくり下りるしおりんにずっとハラハラしたし、間奏でステージの端までスキップしながら手を振るしおりんには全力で手を振りました。はにかみながら歌うしおりんからは、アイドルとして健気に生きようとする決心が漂っていて、その黄色のドレスと相まって、まるで風に揺れる一輪の花でした。控えめに笑顔でいるところがとても素敵でした。僕が応援しなきゃ、守ってあげなきゃ、そんな気持ちでいっぱいにさせる少女がステージに立っていました。後から思うと、このしおりんソロは僕にとってこのコンサートのひとつのハイライトでした。演出含めすべてが完璧で素晴らしかったです。
 ももクロには珍しい衣装替えを挟みつつ、コンサートは終わりに向かって進んでいきます。そして、コンサート本編の最後の曲は「オレンジノート」でした。これがももクロらしいというのか、「行くぜっ!怪盗少女」や「ピンキージョーンズ」のようにキャッチーな曲でシングルリリースを続けてきたももクロが、この大切なコンサートでCD化されてもいず、どちらかといえば地味な曲で終える、そこには大人の思惑を越えた想いがあるように思えました。そう思いたくなる力がこの「オレンジノート」にはあります。「オレンジノート」は「行くぜっ!怪盗少女」のリリースツアーを元に出来上がった曲です。この曲には怪盗少女ツアー終盤の苦しい日々とそれを乗り越えたももクロの想いが詰まっています。あかりんやしおりんが次々に倒れていって、いつも元気な夏菜子ちゃんでさえ厳しい表情で声を枯らしながら「あの空へ向かって」を歌ったゴールデンウィークのUDX。連日のイベントで疲労の限界の中、ももクロにとっても満足のいかないパフォーマンスで悔しかったと思います。僕もあんな悲壮なももクロは二度と見たくありません。そのきつい日々を乗り越えたからこその青空のラクーア。どんなときもももクロを信じていたファンへの感謝の気持ちでラクーアは満ちているようでした。あの日は後ろのほうで見ていて、ももクロは全然見えなかったけれど、とても楽しかった記憶があります。それらをギュッと結晶化させて出来上がったのが「オレンジノート」です。初披露の場は6月6日ららぽーと新三郷。この「オレンジノート」が怪盗少女ツアーを一緒に走ってきたファンへのプレゼントとなり、結果的に新三郷が怪盗少女ツアー締めくくりの場所になったと僕は考えています。「走れ!」で始まったコンサートは、その「オレンジノート」で終わりました。3月、UDXの外のまだ寒いステージで初めて歌った「走れ!」、そこから「オレンジノート」初披露の場であり自由なももクロの頂点だった新三郷、コンサートは怪盗少女ツアーを再現しているように思いました。最初の1曲と最後の1曲からだけですが、そう読み取りました。そこには最高の物語が存在しました。一緒に駆け抜けた日々を思い出して、そして今この大きなステージで歌っていることがとてもうれしかったです。最後がオレンジノートで本当に素晴らしい幕引きとなりました。ももクロのみんなの気持ちが溢れていて、クルッとこちらを向いたときの顔がすべてを物語っていました。アンコールせずに、このまま終わっていいとさえ思いました。実際にはアンコールがあってサンタの衣装でももクロが登場し、ドヤ顔で英語詞を歌う杏果ちゃんが見れて、クリスマス気分を味わえたのが楽しかったです。
 アンコールの最後、日本青年館本当の最後は「あの空へ向かって」でした。ありがとうとしか出てきません。その後の挨拶では、あかりんが感極まって号泣してしまいました。大きなプレッシャーがあったのだと思います。嗚咽混じりの声でありがとうと言うあかりんからコンサートに至るまでの日々を想像して、ただただ拍手を送り続けました。ももクロが退場した後も場内は暗いままでステージ上のスクリーンにももクロのレッスンや撮影の映像が流れ始めて、それがコンサートの余韻を補強する感じでした。というより、感動を押し付けようとする狙いを若干感じました。やり過ぎ感はあったにしても、その映像も素晴らしかったです。レッスンや撮影での、ファンが見たことのないももクロを捉えていて、ステージ上とは違った顔を見せるももクロにじっと見入りました。字幕があったと思うのですが読んだ記憶がありません。映像にずっと集中していました。その中であかりんを真正面から捉えたシーンがありました。あかりんも真正面からカメラを見つめていました。そのあかりんには目を逸らさせない力が満ちていて、あかりんソロでさえしっかり見れなかった自分ですが、最後の最後でやっとあかりんを視界の中心に、真正面に受け止めました。優しい表情でした。見ててホッとする、今までのあかりんとのやり取りの末に辿り着いた、すべてを包み込む表情だと、個人的に感じました。あかりんソロのときの情けなさも忘れさせ、他のファンなんてさらにどうでもよくて、僕があかりんを追い続けてきたからあの表情があるんだと、独りよがりにもそう思ってしまいました。本当にいい表情だなと思いました。
 映像が終わり、会場が明るくなっても、幸せな気持ちはずっと続きました。素晴らしいコンサートでした。まだまだ未熟な部分はあるけれど、がむしゃらに全力なももクロがしっかり伝わってきました。新曲や春の予定から、今以上の加速度で上を目指すももクロが感じられて、2011年が本当の勝負だという決心を読み取りました。今までのように握手したりする機会はこれから少なくなっていくだろうけど、そんなことどうでもよくなるくらい圧倒的な高みに到達してもらいたいです。終演後、友人達と飯田橋の行きつけの居酒屋で打ち上げをしました。そこに向かうには途中で飯田橋ラムラの横を通り過ぎます。毎回通る度に、初めてももクロを見たのはここだよなと思い出すのですが、この日はいつも以上に感慨深い気持ちでいっぱいになりました。ももクロと出会ってから2年弱。たくさんの人と出会って、たくさんの楽しい時間を過ごしました。どれもももクロのおかげです。これからももっともっと楽しい時間を作っていけたらいいなと思います。ももクロのみなさん、素晴らしいコンサートをありがとうございました。さらに上を目指しましょう。