ハコイリ♡ムスメ 2014 Summer Reprise

 冬のある日、秋葉原の地下に夏が舞い降りた。素晴らしい公演でした。これこそエモいということでしょう。


 ハコイリ♡ムスメは癒しと安らぎ、そしてときめきを届けるアイドルグループとして2014年夏に結成され、これまで季節感を大切にたくさんのアイドルソングをカバーし、たくさんの物語を紡いできた。そのハコムスが過去の公演をリバイバルして季節を巡るのがこの冬隔週で行われているSeason in the BOXという公演。隔週火曜日の公演を重ねる毎に過去へ遡っていき、とうとうハコムス初めての季節である2014年夏を再演することになったこの日、鉄戸美桜さんがノロウィルスで欠席という突然の悲しい事態になり、自分も秋葉原に向かうモチベーションがゼロぐらいの勢いで凹んだけれど、公演が始まってみれば、確かに鉄戸さん不在の寂しさはあるものの、最高の時間を過ごせたし見たいものが見れた公演だった。久しぶりにハコムスで泣いたよ。

  1. 君の歌、僕の歌
  2. 最初のキモチ
  3. 避暑地の森の天使たち
  4. はんぶん不思議
  5. 夏色キッス
  6. シンデレラたちへの伝言
  7. 夏休みは終わらない
  8. 海へ行こう 〜Love Beach Love〜
  9. レモンドロップ


 2014年の夏を思い返す。ハコムス初めてのステージである公開ゲネプロも行ったし、新人公演もすべてとはいわないまでも2回行って千秋楽の皆の涙に私も涙した。買ってはないから実際はわからないけど薄そうな生地のTシャツを着て踊る彼女達を思い出したし、ハコムスの初めての衣装である青いストライプのワンピースが大好きで、あの衣装を撮れるんだろうなと公演を見に行ったら、自分が行った公演は2回とも撮影可能曲がTシャツで凹んだのも思い出した。千秋楽を見て、その夜に夜行列車で四国に向かったこと、夏の夜を走る列車の個室で昼に撮ったハコムスの写真、涙で瞳がきらめく門前亜里さんの写真を見返したのも思い出した。9月の反省会公演で母の花柄のワンピースを着て踊る門前さんがとても美しすぎて、その夏少女然とした姿を見てため息しか出なかったのも忘れられない。


 たくさんの記憶が甦り、それに付随するハコムスとは関係ない記憶までも芋づる式に掘り起こされてくる。そのような強い時潮に引かれつつも、圧倒的に迫ってくるのは今のハコムスだった。産まれたばかりの子鹿のようだった新人公演での彼女達とは比べ物にならないぐらいに成長した現在のハコムスがそこにいて、今の彼女達が描き出す夏はより鮮烈で、遠く淡い夏の記憶と対比をなしていた。


 何よりも『海へ行こう』だった。皆が声を合わせて「海へ行こう!」と叫ぶと間髪入れずにイントロが始まったのが最高すぎて流れた涙を隠すために今すぐ夏の海に飛び込みたくなったよ。イントロで腰を低くして海を望む小松もかさんの希望に溢れた視線が大好きで、そのわくわくしている瞳に胸が高鳴るし、「君に出会えてよかった」と歌いながら遠くを見つめる小松さんに私も胸がいっぱいになる。その視線は新人公演よりもTIFのスカイステージを思い出させた。青い空に映える白い衣装、門前さんのいなくなった喪失感を忘れさせてくれる少女達の歌、こうやって記憶が輻輳していく。


 そして『レモンドロップ』は聴く度に毎回必ず涙が込み上げてくる曲になってしまった。テンポよく刻まれるリズムに感情も少しずつ高まっていく。横一列に並び肩を組んで前に進んでくる印象的なシーン、泣き顔だらけの新人公演千秋楽を思い出して、何度でも泣いてしまう。最後のハモりも、弱々しく頼りなげだった新人公演の頃の影は消え去り、天高く伸びる手と同じような、強く真っ直ぐ届いてくる歌声となっていた。『レモンドロップ』はずるいなあと思うくらい泣かせてくるし、そうやって記憶を掘り起こしてくれるのがとても心地良い。


 鉄戸美桜さんがいなかったことは寂しいが、それでも素晴らしい公演だった。きらめきの粒子が降り積もって時の流れの重さを感じさせつつも、目の前にいるのは軽やかに今を進む少女達で、過去と現在を行き来して美しい景色を見せてくれて感謝しかない。ありがとう。




 そして話は5日後。




 鉄戸美桜さんがお休みして不完全な公演だった先日のSeason in the BOXは、それでも2014年夏公演の再演としてとても素晴らしいものだった。しかし出られなかった鉄戸さんは悔しかったに違いない。今のハコムスでステージに立てる時間はあと少しで、数日後には内山珠希さんがハコムスを卒業してしまう。その前に7人であの夏を再現したい。私もそれが見たい。その想いが通じたのか、ハコムス7人での最後の対バンは5日前のSeason in the BOXの再演、即ち2014年夏の再々演となりました。奇しくもその対バンはハコムスが初めて出た対バンと同じアイドル甲子園。その告知ツイートを読んだだけで並々ならぬ決意が伝わってきて、鉄戸さんが書いたかどうかもわからないのに、それは自身の不甲斐なさを責めているような鉄戸さんの7人のハコムスにかける強い気持ちが溢れているように感じた。対バンは行かないよとこのブログでも何度も書いているけれど、こればかりは行かないわけにはいかない。あの夏の再来はこれが最後かもしれないと思い、勇んで向かったよ。いつも通りの最前下手端で待機して、出てきたハコムスは7人。もちろん衣装は2014年新人公演と同じ細いストライプのワンピース。

  1. 君の歌、僕の歌
  2. 最初のキモチ
  3. シンデレラたちへの伝言
  4. 夏休みは終わらない
  5. 海へ行こう 〜Love Beach Love〜
  6. レモンドロップ


 再び、最高な2014夏だった。もうこのまま夏と共に死にたい。いろいろな想いが寄せては返し、時間の狭間を心がたゆたう。涙が出るよりも速くハコムスの笑顔が届き、込み上げてくるものが一瞬で焦がされる。


 今回も『海へ行こう』が素晴らしかった。5日前も素晴らしくて感動したのに。この曲は目の前にずっと阿部かれんさんがいて、驚くぐらい本当にずっと阿部ちゃんがいて、最前で見ている私の視界からはみ出るぐらいに踊る阿部ちゃんの跳ねる身体がとても眩しく、ただただ見つめることしか出来なかった。後になって思い出してみたら門前亜里さんがいたポジションに阿部ちゃんが収まっていることにやっと気付いたよ。そうか、こうやって阿部ちゃんをずっと見ていたように、私は門前さんを見ていたんだ。そう思うと不思議な感じがした。私はハコムスが歌うカバー曲がオリジナルとして歌われていた頃を知らない。この門前さんを思い出す感情は、オリジナルを知っている人がハコムスを見て湧く感情に初めて触れたような気持ちだった。懐かしくて新しい。目の前の阿部ちゃんの存在の眩さと、遠く離れて記憶の中でだけ輝く門前さんの存在が連星のように引き寄せ合い、長く見続けること、時間を積み重ねることでしか受け取ることの出来ない光を放っていた。


 ハコムスは過去のアイドルの名曲を今に甦らすアイドルグループだ。過去と現在を繋いで、時の流れで古びない歌の素晴らしさを今に伝えるグループ。結成して1年と半年ちょっと、経験を積んで彼女達は時を巡るのに手慣れてきたように思う。そんな彼女達が古き良きアイドルではなく自分達の過去を掘り起こして、今の成長を伝える。それがSeason in the BOXである。遠い時代の忘れ去られた情景を優しく掬い上げるグループとして結成されたハコムスが自分達の過去と向き合っていることに感動がある。過去が、積み重ねてきたものがあるということに時間の重みを感じずにはいられない。そうやって自らと対峙して作り上げられたステージは、十代という人生における輝かしい瞬間、大人になるとそう思わざるを得ない瞬間をステージに捧げてきたことへの尊さに溢れていて、それはもう感謝を超えた祈りみたいな気持ちになる。かけがえのない時間をハコムスとして私達と過ごしてくれて、ありがとうという気持ちしかない。


 寄せては返す波のように2度も私を眩しい夏へと呼び戻してくれたハコムス。それは素晴らしい時間だった。あの初めての夏と同じように優しく微笑んでくれた神岡実希さんの眼差しを思い出しながら、ずっと見続けてきてよかったと本当に思ったし、ハコムスがここまで続いてくれたことにとても感謝している。そんなハコムスも内山珠希さんが卒業することでひとつの物語が幕を閉じる。珠希さんの最後は夏が似合う珠希さんらしい公演に違いないし、笑顔がたくさん溢れることになると信じてる。楽しみにしてるよ。


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奥山由之写真展 BACON ICE CREAM

 強い。暴力的な強さがある。共感を得ようとか、心に寄り添うとか、生易しい空気がまったくない。残酷なまでに強く迫ってくる写真。だけど、どこがどう強いのか問われるとうまく言えない。まず撮るということがあって、その写真が見られることにあまり頓着していないふうに感じられ、それが強さのような気もする。しかし展示は考え込まれているので、見られることを意識していないわけではない。


 私も最近知ったばかりの新規も新規なので、流行を追っているだけなのかもしれないと思うときもある。でも好きになるなら今のタイミングしかないと感じていて、このタイミングで好きになれたことは良かったと思う。


 去年の年末に書店で写真集を立ち読みした。他のお客が読んでいたので、店内をぐるっと回って少し時間を潰してから写真集を手に取ってページをぱらぱらめくった。過去に何かの媒体で写真を見ることはあったかもしれないが、初めて奥山氏が撮ったということを意識して見た一連の写真は、いまひとつピンとこなかった。わかりやすいほどあっけなく、自分の眼と写真の焦点が合わなかった。嫌いじゃないけど合わなかった。なので、波長が合わないのはしょうがないと買うのを止めた。


 1月、それでも気になって個展に行った。ただ私が流行りに弱いだけかもしれないが。大小の写真で埋め尽くされた空間は、以前に写真集を立ち読みしたときとは違う強さがあった。大きくプリントされた写真に圧倒されたのかもしれない。色といい影といい、迷いの無いものがそこに写っていて、その潔さが心地良い。滝に打たれるような感覚があった。大きな写真があることで小さな写真も際立ち、すべてが同列でないことで美しさが生まれていた。


 結果的に2回見に行って写真集まで買った。写真集を買って眺めてみても、やはり展示には敵わないような気がした。写真集と個展と、どちらが本当なのだろう。残り続けるものと、一期一会の時間、どちらにも良さがあるが、写真は一瞬を永遠に切り取る手段であるから、残るものが写真という考えがある。部屋に飾るのならまだしも期間が限られている個展は、写真の存在としては特別ではないだろうか。でもその特別な空間に心揺さぶられているので、本当の意味での写真そのものを自分は好きではないような気さえしてくる。本当の意味とは。


 一連の写真に、この人はこれだという確固としたイメージが無くても奥山由之の写真だとわかる強さ。写ってるいるものの奥に同一の灯が見える。こう言われるのは本人的にはどうなのだろうと思いつつもヴォルフガング・ティルマンスに似ているように思う。ティルマンスの写真を見ると、写真はわからないなといつも思わされる。しかし見入ってしまう。そういう曖昧なイメージの積み重なりの上に成り立つ感情の変容を心地良くさせる写真との関係が、奥山由之とティルマンスの写真から感じられる。わからない。


 わからないけどすごさはわかる。掴みきれない良さは、もしかしたら流行りに踊らされていることで見せられている幻影かもしれないが、それでも奥山氏の写真はぼやけた世界の空気を射抜くようにまっすぐ胸に響く。とても強く印象に残る個展だった。

ハコイリ♡ムスメ『Season in the BOX~ムスメたちが駆け抜けた季節~』@AKIBAカルチャーズ劇場(20160223)

 私が好きなのはあの秋だったんだ…、とため息つきながら季節が甦ってくる最高のリバイバル公演だった。


 阿部かれんさんは残念ながらインフルエンザでお休みだったが、彼女がいないことでより当時の再演に近い感じになり、純度の高い公演となっていた。阿部ちゃんごめんねー。でも本当にあの秋冬のハコムスを見ているようで、もしここに門前亜里さんがいればと何度思ったことか。過去に囚われている、もっと言えば門前さんのことを今でも引きずっている私はどうなのだろうと思うけど、しかしこうやってあの当時を振り返る公演を見せられると思い出に揺り動かされてしまうわけです。本当に素晴らしい季節だった。

  1. なぜ?
  2. ホワイトラビットからのメッセージ
  3. Be My Diamond!
  4. 日曜はダメよ
  5. 星座占いで瞳を閉じて
  6. パジャマでドライブ
  7. 真赤な自転車
  8. Snow celebration


 どの曲も良かったのだけど、中でもユニット曲の3曲が特に素晴らしかった。ユニット曲はあまり歌われる機会も少なく、2014秋冬にしか歌ってないようなものなので、特別にあの頃の空気が濃縮されているような気がした。私もこの3曲が大好きで、だからここで聴けることが本当にうれしい。『日曜はダメよ』は、先日のミハマニューポートリゾートで歌われたといっても、その前に歌ったのは遠い昔なのでやはり久しぶりの感覚が強い。この曲での珠希さんの優しい歌声が大好きなんだ。握手会で珠希さんに歌声が好きと毎回言っていたな。間奏での鉄戸美桜さんのバレエのジャンプは、あの頃見ていたときよりも高く大きく跳躍しているように見えて、その鳥のような羽ばたきに連れられて私の心の弾んだ。


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 『星座占いで瞳を閉じて』は、これこそ最後に歌ったのがいつだったか思い出せないくらいの、本当に久しぶりの曲。一昨年は神岡実希さんのほうが背が高かったのに、今ではぽにょが神岡さんの背を追い越して、その成長に時の流れを感じる。間奏でじゃれ合う2人の声がマイクを通さないで聞こえてくることが懐かしく、胸いっぱいになる。


 そして『パジャマでドライブ』。イントロの静けさが私を一瞬で過去へ連れ去る。この曲と共に演じられた劇団ハコムスで毎回門前亜里さんの瞳が濡れていたことを思い出す。失恋した少女と街が動き出す前の朝の静けさは、門前さんがいたからこそ作れた空気なのかなと思っていたけれど、門前さんの代わりに鉄戸さんが入った今の3人でも当時と変わらない空気を作り上げていた。しんとした会場に響く菅沼もにかさんの声。あの頃よりも経験を積んで成長した3人の、絹織りのように美しく重なっていく歌声が私の心を包み込む。少しの身動きも憚られるような、心の微かな揺れ動きさえも伝わってくる繊細な時間。その静謐な雰囲気に身を委ねるのが大好きだったんだ。それが再演されて本当にうれしい。


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 私にとって2014年秋はハコムスを好きになった大切な季節であることを改めて思い出させてくれた公演だった。いろいろ思い出したよ。『のび太の結婚前夜』も再演してほしかったな(笑)。あのときの鉄戸さんに感動して、だから今があるんだ。そして隔週毎に過去の情景を巡るリバイバル公演は、時を遡るにつれて門前亜里さんの存在の重みを実感する。あぁ、やっぱり自分は門前さんが好きなんだと、彼女の優しさに甘えていた頃の穏やかで美しいステージと、今の笑顔が絶えないステージの景色が交差して、記憶が鮮やかに編み込まれていく。今も昔も本当に良い時間だった。ありがとう。